日本における同性婚の法的状況は、司法・立法・地方行政の各レベルで変化が続いています。現行の民法と戸籍法のもとでは同性カップルの婚姻は認められていませんが、2019年以降に全国で提起された「結婚の自由をすべての人に」訴訟では、複数の地裁・高裁が現行法の問題を指摘しており、最高裁大法廷での審理が続いています。自治体レベルではパートナーシップ制度が急速に普及し、国会では野党が法案を提出するなど、法制度をめぐる議論が各方面で進んでいます。この記事は、制度・訴訟の概要を確認したい方や、関連する法令の根拠を調べている方を対象としています。

この記事では、現行の民法・憲法の関連規定の内容、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の地裁・高裁における判断の経緯、自治体のパートナーシップ・ファミリーシップ制度の概要、国会における立法動向を整理します。同性婚の是非についての見解や、個別の事案に対する法的判断はこの記事では扱いません。

民法と戸籍法が定める婚姻の成立要件

現行の婚姻制度の枠組みを理解するためには、まず民法の婚姻規定と戸籍法の届出制度の基本的な構造を確認する必要があります。

民法は第4編第2章(婚姻)に、婚姻の成立・効力・解消に関する規定を置いています。民法第731条は婚姻適齢を定めており、2022年4月の改正民法施行後は男女ともに18歳以上とされています。民法第739条は、婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによってその効力を生じると定めており、届出婚主義を採用しています。民法第750条は夫婦の氏について、夫婦はいずれかの氏を称することを定めており、婚姻に際して夫婦どちらかが氏を変えることが求められます。民法第890条は配偶者の相続権を定め、被相続人の配偶者は常に相続人となるとしています。

民法の婚姻規定には、同性婚を明示的に禁止する条文はありません。しかし、婚姻に関する各規定は「夫婦」「夫」「妻」という用語を用いており、異性間の結合を前提とした解釈のもとで整備されてきました。戸籍法に基づく婚姻届の記載様式も、一方が「夫」他方が「妻」という区分を設けており、同性カップルには対応していません。こうした構造のもとで、同性カップルからの婚姻届は行政実務上受理されない状態が続いています。

婚姻が認められることで生じる法的効果は多岐にわたります。配偶者としての相続権(民法第890条)、相続税の配偶者控除(相続税法)、所得税法上の配偶者控除・配偶者特別控除、健康保険における被扶養者としての算入、遺族年金の受給資格、医療機関での同意や医療情報の共有、住宅ローンの連帯債務・連帯保証人設定、生命保険の受取人設定などが代表的な例として挙げられます。同性カップルがこれらの法的保護を婚姻を通じて受けられないことが、訴訟や立法論の出発点となっています。

憲法第24条「両性の合意」の文言と解釈の論点

同性婚をめぐる法的議論において、日本国憲法第24条の解釈は中心的な論点の一つです。

第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定しています。第2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」としています(e-Gov法令検索掲載の条文)。

第1項の「両性の合意」における「両性」の意味が、同性婚の可否を考えるうえで重要な解釈上の論点になります。一方の解釈は、「両性」を「男性と女性(異性間)」を指すものと読みます。この読み方によれば、憲法は婚姻を異性間のものとして定めていることになり、同性婚を立法で認めるためには憲法改正が必要という帰結が導かれることがあります。もう一方の解釈は、「両性」を「婚姻の当事者双方の性」を意味するものと読みます。この解釈では、第24条は同性婚を直接排除する根拠とはならず、立法政策として同性婚を認めることは憲法上可能という見解につながります。

制定当時(1946年)の文脈では、第24条は戦前の「家」制度のもとで家長の意向によって婚姻が決定される慣行に対し、当事者双方の自由意思に基づく婚姻を保障することを主眼としていたとされています。「両性」という文言が当時の立法者において同性婚を念頭に置いて定められたものではないことは広く指摘されていますが、その文言が今日の文脈で同性婚を排除する根拠になるかどうかについては、法学者の間でも見解が分かれています。

また、第24条のほかに憲法第13条(個人の尊厳と幸福追求権)および第14条第1項(法の下の平等)も、同性婚訴訟における重要な争点となっています。同性カップルが婚姻に伴う法的保護を受けられない状態が、性的指向に基づく合理性のない差別的取扱いにあたるか(14条の問題)、また婚姻制度による法的保護を受けることが個人の人格的生存に不可欠な権利にあたるか(13条の問題)が、各裁判所で判断されてきました。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟の地裁段階(2021年〜2024年)

「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、2019年2月14日に全国4か所(札幌・東京・名古屋・大阪)の地方裁判所に一斉提起され、同年9月には福岡でも提訴されました。原告は同性カップルで、婚姻を認めない民法・戸籍法の規定が憲法に反するとして、国家賠償を請求しました。その後、東京では2次訴訟も提起され、合計6件の訴訟になっています。

地裁段階では、裁判所ごとに判断が異なる結果となりました。以下に各判決の概要を記載します(公表判決および弁護士会声明等に基づきます)。

札幌地裁 2021年3月17日: 憲法14条1項(法の下の平等)に違反すると判断しました。同性婚を認めない規定は性的指向に基づく区別として合理的根拠を欠くとしました。憲法24条については、異性間の婚姻を保障した規定と解し、違反しないとしました。

大阪地裁 2022年6月20日: 憲法14条・24条のいずれについても違反しないとして合憲と判断しました。同性婚を認めるかどうかは国会の立法裁量の範囲内にあるとしました。

東京地裁(1次) 2022年11月30日: 憲法24条2項について、同性カップルに婚姻と同等の法的効果を認める制度を設けないことは「違憲状態」にあると判断しました。憲法14条1項については違反しないとしました。

名古屋地裁 2023年5月30日(Marriage for All Japan の情報では5月31日): 憲法14条1項および24条2項に違反すると判断しました。同性カップルに婚姻と同等の法的保護を与えない立法状態を憲法違反と認定しました。

福岡地裁 2023年6月8日: 憲法24条2項について「違憲状態」と判断しました。14条1項については違反しないとしました。

東京地裁(2次) 2024年3月: 憲法24条2項について「違憲状態」と判断しました。

地裁6件の判断は、「違憲(明示的に憲法違反)」「違憲状態」「合憲」と分かれました。どの憲法条文(14条・24条1項・24条2項)を根拠として判断するかによっても結論が異なっています。なお「違憲」と「違憲状態」の違いは、現行法が今すぐ無効かどうかではなく、立法措置が求められる状態にあるかどうかという判断の違いを反映しています。いずれの訴訟でも国家賠償請求自体は認められませんでしたが、違憲・違憲状態の認定自体は、後の高裁審理での審理の起点となりました。

高等裁判所の判断と論点の広がり(2024年〜2025年)

地裁判決を受けた控訴審では、2024年3月から2025年11月にかけて6件の高裁判決が出されました。以下に各高裁の判断を記載します(公表判決および弁護士会声明等に基づきます)。

札幌高裁 2024年3月14日: 憲法24条1項・2項および14条1項に違反すると判断しました。「両性」の文言について、同性間の婚姻をも含む解釈が可能であり、同性婚を認めない現行法が24条1項にも違反するとした初めての高裁判決となりました。

東京高裁(1次) 2024年10月30日: 憲法14条1項および24条2項に違反すると判断しました。

福岡高裁 2024年12月13日: 憲法13条(幸福追求権)・14条1項・24条2項に違反すると判断しました。婚姻に関する法的保護を受ける利益が個人の人格的生存に不可欠な権利にあたるとし、13条を根拠とした判断を示しました。

名古屋高裁 2025年3月7日: 憲法14条1項および24条2項に違反すると判断しました。

大阪高裁 2025年3月〜4月: 憲法24条2項および14条1項に違反すると判断しました(複数の情報源で判決日に関して日付の表記が異なるため、月のみの記載としています)。

以上5件の高裁判決はいずれも現行法の問題を指摘しており、2025年4月時点で当時の5高裁すべてが違憲判決を言い渡したことを、札幌弁護士会の会長声明等が報告しています。

これに対し、東京高裁(2次) 2025年11月28日は、同性婚を認めない現行制度は憲法24条1項・2項および14条1項に違反しないとして合憲と判断しました。将来的に違憲となる可能性について言及しつつ、制度の見直しは国会の裁量に属するとしたと報告されています(アムネスティ日本等の情報参照)。高裁6件の判断は「違憲または違憲状態5件、合憲1件」と分かれる結果となっています。

高裁段階では、地裁と比較して憲法13条(幸福追求権)を根拠に加える判決が登場したこと、「違憲状態」にとどまらず明示的に「違憲」と判断する裁判所が増える傾向が見られます。また、憲法24条1項の「両性」の解釈について、地裁段階では多くが「異性間」と解して24条1項違反を認めなかったのに対し、札幌高裁が初めて「同性も含む」解釈を採用した点は、最高裁審理でも重要な論点になると見られています。

最高裁大法廷への上告と現在の状況

高裁各判決を受けてそれぞれの当事者が上告・上告受理申立てを行い、全件が最高裁判所に係属しています。2026年5月時点で、最高裁判所大法廷での審理が続いており、最高裁としての判断は示されていません(Marriage for All Japan および各弁護士会の情報による)。

最高裁判所大法廷は、15名の裁判官全員で構成される合議体です。大法廷での審理は、法令の憲法適合性について判断を示す場合や、従来の最高裁判例を変更する必要がある場合に行われます。同性婚訴訟は、婚姻に関する民法・戸籍法の規定が日本国憲法に適合するかどうかという、重要な憲法上の法律問題を含むことから、大法廷での審理が決定されています。

大法廷が判断を示した場合、その内容は同性婚に関する司法判断として確定的な意義を持ちます。ただし、最高裁が現行法を違憲と判断したとしても、婚姻制度の具体的な変更は立法府(国会)が法改正を行うことによってなされるものであり、司法判断と立法的対応は別の課題として進行します。最高裁の判断の内容・時期は、本記事執筆時点では確定していません。最新の状況については、裁判所のウェブサイトや Marriage for All Japan 等の公式情報でご確認ください。

自治体のパートナーシップ・ファミリーシップ制度

国の法律による婚姻が認められていない状況のもと、自治体が独自に設けるパートナーシップ制度が全国に急速に普及しています。

パートナーシップ制度は、同性カップルが互いをパートナーとして宣誓・届出することで、自治体がその関係を公的に証明する仕組みです。2015年に東京都渋谷区と世田谷区が先行して導入しました。渋谷区と世田谷区が共同で実施した調査(2025年6月27日公表)によると、2025年5月31日時点でパートナーシップ制度を導入している自治体は530、人口カバー率は92.5%に達しており、登録件数は9,836件、直近3年間で導入自治体数は約2.4倍に増加したとされています。

ファミリーシップ制度は、パートナーシップ制度に加え、カップルと生活をともにする子どもや親族との関係を自治体が証明する仕組みです。2024年5月時点の調査では、パートナーシップ制度を導入している自治体の約47%がファミリーシップ制度も導入していると報告されています。

パートナーシップ・ファミリーシップ制度の証明書は、自治体の政策的承認を示すものであり、法律上の婚姻とは効力が異なります。証明書によって、自治体が関与するサービス(公営住宅の入居資格など)や、民間企業・団体が独自に定めるサービスで配偶者と同等の扱いを受けられる場合がありますが、民法上の相続権、税制上の配偶者控除、社会保険上の扶養関係、遺族年金の受給資格といった、国の法律が適用される場面での法的効果は生じません。

また、自治体間での証明書の相互承認の取り組みが進んでいます。転居の際に新たな自治体での再手続が必要になる問題への対応として、複数の自治体や都道府県が連携して証明書を継続利用できる仕組みを整備しています。具体的な手続や対象自治体については、各自治体の窓口で確認することが必要です。

国会における立法の動向

国会では、同性婚または同性カップルに対する法的保護を設けることを求める立法の動きが続いています。

野党各党は概ね婚姻の平等化または同等の法的保護を設ける立法に賛成の立場を示しています。立憲民主党は2025年6月、「婚姻の平等」を実現するための民法等の改正法案(婚姻平等法案)とともに、性同一性障害特例法改正法案を衆議院に提出しました(立憲民主党公式サイト参照)。日本共産党も婚姻の平等を求める法案を参議院に提出しており、複数の野党が国会での審議を求めています。2025年2月には、過去最多の国会議員が参加した院内集会が開かれ、各政党が公式方針を表明したとも報告されています。

与党側では、同性婚や同等の法的保護に関する立法について意見が分かれている状況が続いており、審議入りには至っていません。

政府(内閣)の対応としては、2025年9月に「事実婚」に適用される法令について同性パートナーにも適用することを認める解釈が示され、対象となる法令は33法に達したとの報告があります(LGBT法連合会の情報参照)。これは立法的な婚姻制度の変更ではなく、既存の法令の解釈・運用レベルの対応であり、婚姻に伴う法的効果の全般が同性カップルに及ぶものではありません。

2026年5月時点で、婚姻の平等に関する法改正を定める法律は成立していません。最高裁判所での審理の動向、与党内の議論の推移、市民社会からの働きかけなどを踏まえながら、国会での立法論議が続くことが見込まれます。

参考リンク

この記事は、以下の公式・公的情報を参照しました。