厚生年金保険法(法令ID:329AC0000000115)は、法令全集の条文ページe-Gov法令検索で確認できます。令和7年年金制度改正法は、短時間労働者の被用者保険加入対象を広げるため、企業規模要件の段階的縮小・撤廃、月額8.8万円以上という賃金要件の撤廃、個人事業所の適用拡大などを進める改正です。人事・労務、給与計算、店舗運営、パート・アルバイト雇用を扱う事業者や、扶養の範囲を意識して働く従業員が参照する場面が多いテーマです。この記事では、短時間労働者の加入要件、106万円の壁、企業規模要件、個人事業所、保険料調整措置を扱い、個別の加入判定や保険料試算は扱いません。

基本情報

社会保険適用拡大は、厚生年金保険と健康保険の加入対象を、短時間で働く人にも広げる制度改正です。厚生労働省は、令和7年度年金制度改正法について、働き方や家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築し、高齢期の生活の安定を図ることを目的とする改正と説明しています。短時間労働者については、従来、企業規模、週の所定労働時間、賃金、学生でないことなどを組み合わせて加入対象を判断していました。

項目内容
主な関係法令厚生年金保険法、健康保険法、国民年金法等
厚生年金保険法の法令番号昭和二十九年法律第百十五号
厚生年金保険法の法令ID329AC0000000115
改正法社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律
公布日2025年6月20日
主な論点企業規模要件、賃金要件、週20時間要件、個人事業所、保険料調整措置

今回の改正は、「106万円の壁」という言葉だけで捉えると狭く見えます。実際には、短時間労働者が週20時間以上働く場合に、勤め先の規模にかかわらず厚生年金・健康保険の対象へ近づけていく制度改正です。企業規模要件は10年かけて段階的に縮小・撤廃され、賃金要件は法律の公布から3年以内に撤廃される方向です。事業者側では、加入対象者の洗い出し、労働条件通知書、給与計算、保険料負担、従業員説明を一体で見直す必要があります。

106万円の壁と賃金要件

「106万円の壁」と呼ばれてきたものは、短時間労働者が厚生年金・健康保険の加入対象となるかを判断する要件のうち、月額賃金8.8万円以上という賃金要件を指すことが多い表現です。年額に換算するとおおむね106万円となるため、扶養や手取りへの影響を意識して就業時間を調整する場面で使われてきました。厚生労働省の資料では、最低賃金の状況を踏まえ、2026年10月に賃金要件を撤廃予定と案内されています。

賃金要件が撤廃されると、短時間労働者の加入判断では、月額8.8万円以上かどうかよりも、週の所定労働時間が20時間以上かどうかが前面に出てきます。厚生労働省は、最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと年額換算で約106万円となることを踏まえ、最低賃金の動向を見極めて判断すると説明しています。つまり、単に年収の線引きを外すだけではなく、最低賃金と労働時間の関係を背景にした見直しです。

実務では、賃金要件の撤廃により、給与額だけで加入対象外と整理していた短時間労働者について再確認が必要になります。週の所定労働時間、学生かどうか、雇用見込み期間、企業規模要件の段階的変更などを合わせて見なければなりません。残業時間は原則として週の所定労働時間に含まれませんが、常に残業が発生している場合などは算出に含むことがあると厚生労働省の特設サイトで説明されています。契約上の所定労働時間と実態の両方を確認することが重要です。

週20時間要件と学生除外

短時間労働者の加入対象を考えるとき、中心になるのが週の所定労働時間20時間以上という要件です。厚生労働省の特設サイトでは、労働時間とは就業規則や雇用契約書等に記載されている、通常の週に勤務する時間のことと説明されています。フルタイムの4分の3以上働く従業員は従来から社会保険の対象ですが、適用拡大では、フルタイムに満たないパート・アルバイトでも一定要件を満たす場合に加入対象となります。

学生でないことも、短時間労働者の加入要件として整理されています。特設サイトでは、学生とは主に高等学校の生徒、大学または短期大学の学生、専修学校に在学する生徒等が該当すると説明されています。一方で、休学中、定時制、通信制の方などは加入対象となる場合があるとされています。学校種別や就学形態によって扱いが変わるため、従業員の自己申告だけではなく、必要に応じて公式Q&Aや日本年金機構の案内を確認することが大切です。

また、2か月を超えて雇用される見込みであることも、フルタイム従業員と同じく確認が必要とされています。短期契約、更新予定のある契約、季節的な雇用、店舗の繁忙期雇用などでは、契約期間と更新見込みの整理が加入判断に影響します。事業者側では、雇用契約書の所定労働時間、契約期間、更新条項、学生区分、勤務実績を確認できるようにし、給与計算や資格取得届の手続とつなげる準備が必要になります。

企業規模要件の段階的縮小

今回の改正では、短時間労働者の企業規模要件が段階的に縮小・撤廃されます。厚生労働省の特設サイトでは、従業員数51人以上の企業は2027年9月まで、36人から50人の企業は2027年10月から、21人から35人の企業は2029年10月から、11人から20人の企業は2032年10月から、10人以下の企業は2035年10月からという形で、対象範囲が段階的に広がると案内されています。従業員数の基準は、現在の厚生年金保険の加入対象者をもとに考える仕組みです。

厚生労働省は、企業規模要件を10年かけて段階的に縮小・撤廃すると説明しています。この段階的な進め方は、中小企業の人材確保や保険料負担への影響に配慮しながら、短時間労働者の保障を広げるためのものです。事業者は、自社がどの時期に対象となるかを確認するだけでなく、法人全体での従業員数の数え方、フルタイム従業員と4分の3以上勤務する従業員の把握、将来の採用計画を含めて準備する必要があります。

企業規模要件が近づく事業者では、対象となる短時間労働者の人数、標準報酬月額の見込み、事業主負担分、従業員本人の手取りへの影響、説明会や個別相談の必要性を早めに整理しておくことが重要です。加入対象が増えると、資格取得届、給与控除、賞与支払届、算定基礎届などの実務にも影響します。単に法改正の施行日だけを追うのではなく、対象者の把握から届出・給与計算までの社内フローを見直すことが実務上の入口になります。

個人事業所の適用拡大

令和7年年金制度改正では、短時間労働者だけでなく、被用者保険の適用対象となる個人事業所も拡大されます。厚生労働省の資料では、従来、個人事業所のうち常時5人以上を使用する法定17業種の事業所は社会保険に必ず加入することとされていた一方、農林水産業、宿泊業、飲食サービス業など、法定17業種に該当しない業種の個人事業所は適用対象外とされていたと説明されています。

今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上を使用する全業種の個人事業所を適用対象とする方向で拡大されます。厚生労働省のページでは、2029年10月以降、原則としてすべての業種の事業所が被用者保険の適用対象となると説明されています。ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している、従来非適用であった業種の常時5人以上の個人事業所については、経営への影響に配慮し、当分の間、適用対象としない旨も示されています。

この改正は、法人か個人事業か、業種が法定17業種かどうかによって社会保険の適用が分かれていた部分を見直すものです。飲食、宿泊、農林水産、サービス業などでは、これまで社会保険の適用事業所でなかった個人事業所でも、今後の新規開業や事業拡大の時期によって適用関係が変わる可能性があります。個人事業主は、常時使用する人数、業種、開業時期、法人化の有無、短時間労働者の雇用状況を整理し、年金事務所や公式資料で手続を確認する必要があります。

保険料調整措置と従業員説明

社会保険の適用拡大では、加入対象が増えることにより、事業主負担と本人負担の両方が発生します。厚生労働省は、社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者の就業調整を減らすため、特例的・時限的に保険料負担を軽減する保険料調整の措置を実施すると説明しています。対象は、従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者で、標準報酬月額が12.6万円以下の者とされています。

この措置では、基本的に労使折半である社会保険料について、利用を希望する事業主が事業主負担割合を増やし、被保険者本人の負担を軽減できる仕組みが示されています。事業主が追加負担した分については、その全額を制度全体で支援すると説明されています。期間は3年間とされています。制度の利用可否や手続の詳細は、施行時期や公式資料の更新に応じて確認する必要がありますが、従業員説明では、本人負担、将来の年金、健康保険給付、手取りの変化を合わせて伝えることが重要です。

社会保険に加入すると、厚生年金では基礎年金に加えて厚生年金を受け取ることができ、健康保険では病気やけが、出産のため会社を休んだ場合の給付が充実するという説明が厚生労働省資料に示されています。一方で、保険料控除により毎月の手取りが変わるため、従業員にとっては短期的な負担と長期的な保障を並べて理解する必要があります。事業者は、対象者の抽出、個別説明、試算ツールの案内、資格取得手続、給与明細への反映までを一連の準備として進めると整理しやすくなります。

参考リンク

社会保険適用拡大を確認するときは、まず厚生労働省の年金制度改正法ページで改正全体を確認し、次に社会保険適用拡大特設サイトで短時間労働者の加入要件、企業規模要件、従業員説明、支援制度を確認する流れが読みやすいです。条文上の被保険者や適用事業所の基本はe-Gov法令検索で確認できます。施行時期や支援制度の細目は今後の政省令、通知、年金機構の案内で補われるため、実務対応では最新の公式資料も合わせて確認してください。