国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律(法令ID:322AC1000000080)は、衆参両院の議長・副議長・議員に支給される歳費の月額、旅費の計算基準、文書通信交通滞在費、立法事務費、期末手当の根拠と計算方法を定める昭和22年制定の法律です。条文全文は法令全集の歳費法ページおよびe-Gov法令検索で確認できます。国会議員の報酬体系を調べる場合、歳費法の改正経緯を確認する場合、または国会での歳費関連法案の審議内容を参照する場合に使われる法律です。この記事では、e-Gov掲載の条文と衆参両院・人事院の公表資料に基づき、歳費法の主要条文の仕組みと、2025年〜2026年の改正経緯を整理します。
歳費法が定める議員報酬の全体像
歳費法は、国会議員に支給される金銭的給付のうち、月額歳費(第1条)、旅費(第3条・第4条以下)、文書通信交通滞在費(第9条)、立法事務費(第10条)、期末手当(第11条の2)を一本の法律で規定しています。これらは支給の対象、算定の基準、支給の頻度がそれぞれ異なります。
月額歳費は議員としての基本的な報酬であり、在職期間に応じて月払いで支給されます。旅費は、国会への出席や議員としての公務上の移動に関連して支給される費用です。文書通信交通滞在費は、議員が行う文書の発送、通信、交通、宿泊に関する費用として月額で支給される経費であり、議員ごとに一定額が設定されています。立法事務費は会派(院内の政党・会派組織)を単位として支給され、所属議員数に基づいて算定されます。期末手当は国家公務員の賞与に相当する形で年に2回(6月と12月)支給される給付です。
| 項目 | 主な根拠条文 | 支給形態 | 受給者 |
|---|---|---|---|
| 月額歳費 | 第1条 | 月払い(在職日数で按分) | 議員個人 |
| 旅費 | 第3条・第4条以下 | 実費または定額 | 議員個人 |
| 文書通信交通滞在費 | 第9条 | 月額一定額 | 議員個人 |
| 立法事務費 | 第10条 | 月払い(所属議員数で算定) | 会派 |
| 期末手当 | 第11条の2 | 年2回(6月・12月基準日) | 議員個人 |
歳費法は昭和22年(1947年)の制定以来、国会議員の報酬体系の基礎を規定し続けています。法律自体の条文数は多くなく、報酬の骨格を定める構造になっています。具体的な額は条文に直接定められているものと、特別職給与法や一般職の国家公務員の給与制度の例を参照して計算されるものに分かれます。改正は国家公務員給与の改定動向や、国会・世論の議論を経て行われてきており、近年は特に期末手当の水準をめぐる動きが続いています。
歳費法が定める各給付は、議員の議会活動を経済的に支える制度的基盤を構成しています。月額歳費は議員個人の生活と活動を支える基本的な報酬ですが、文書通信交通滞在費や立法事務費は、議員活動に必要な経費を公費で賄う仕組みとして位置づけられています。これらが一本の法律にまとめられているのは、議員の報酬・経費を透明に規律するためであり、予算審議においても参照される法律です。
月額歳費の規定と正副議長・議員の区分(第1条)
第1条は、月額歳費を院の役職区分ごとに定めています。e-Gov掲載の条文および衆議院の公表資料によれば、衆議院議長は月額217万円、衆議院副議長は月額158万4千円、衆議院議員は月額129万4千円が定められています。参議院については、議長・副議長・議員の区分に応じた額が同様に規定されています。
月額歳費の支給は、暦月の初日から末日まで在職した場合に全額が支給される仕組みです。月の途中で就任した場合や月の途中で退職した場合は、在職した日数をその月の日数で除した割合に月額を乗じて計算されます。議長または副議長に就任した場合は、議員としての月額ではなく、役職に対応した月額が適用されます。議長・副議長が職を退いて一般議員に戻った場合は、議員としての月額に戻ります。
月額歳費は、特別職の職員の給与に関する法律(特別職給与法)で定める国務大臣や内閣総理大臣の俸給とは別の法律に規定されています。一般職の国家公務員の俸給表に直接リンクしているわけではなく、歳費法に具体的な金額が条文として規定されている点が特徴です。このため、月額歳費を変更するには歳費法自体を改正する必要があります。近年は月額歳費の水準そのものよりも、期末手当(第11条の2)の水準をめぐる議論のほうが活発に行われています。
補助情報として歳費法の基本情報を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律 |
| 法令番号 | 昭和22年法律第80号 |
| 法令ID | 322AC1000000080 |
| 制定年 | 1947年(昭和22年) |
| 主な分野 | 国会議員報酬、月額歳費、旅費、文書通信交通滞在費、立法事務費、期末手当 |
文書通信交通滞在費と立法事務費(第9条・第10条)
第9条は文書通信交通滞在費について定めています。この費用は、国会議員が議員活動において必要とする文書の発送や通信、交通、宿泊に関する費用として支給されるものです。e-Gov掲載の条文によれば、月額100万円が議員ごとに支給されます。両院合わせた全議員数に月額100万円を乗じた総額が毎月公費から支出されます。
文書通信交通滞在費は、議員活動に必要な経費を公費で賄う仕組みとして設けられており、月額歳費とは別に支給されます。かつては「文書通信交通費」と呼ばれており、法改正によって現在の名称になっています。支給された費用が何にどれだけ使われたかを領収書等で開示する義務が十分に整備されていないことから、使途の透明性をめぐる議論が長年続いてきました。
2022年には、在職日数が月の半分に満たない場合(月の途中で当選・退職した場合など)について、受け取った費用の一部を月末に返納する仕組みを導入する改正が行われました。これは、たとえば月の途中で当選した議員が選挙前の日数分も含む月額全額を受け取るという従来の運用への批判に応えたものです。ただし、使途の全面的な開示義務については、依然として法令上の定めがない状態が続いています。使途の透明化を義務付ける立法については、引き続き国会内外で議論が行われています。
第10条の立法事務費は、議員が所属する会派に対して支給されます。会派の所属議員数に応じて算定されるため、会派の規模が大きいほど支給総額は大きくなります。立法事務費は議員個人ではなく会派を対象とするため、支給の根拠や使途の確認は会派単位での資料によって行います。会派の中で立法活動のための経費としてどのように配分・使用するかは、各会派の判断に委ねられている部分が大きく、透明性の観点から文書通信交通滞在費と並んで議論されることがあります。
これらの費用は月額歳費や期末手当とは性格が異なります。月額歳費・期末手当が議員個人の報酬であるのに対し、文書通信交通滞在費は活動経費の補填、立法事務費は会派の運営経費の補填という位置づけです。この違いは、改正論議の際に支給の根拠や透明化の方法を議論する前提として確認が必要になる点です。
期末手当の算定方式と国家公務員給与との連動(第11条の2)
第11条の2は期末手当について定めています。条文では、特別職の職員の給与に関する法律の例に準じた形で支給割合等を計算する仕組みが参照されており、支給の基準日として6月1日と12月1日が定められています。基準日に在職している議員が支給の対象になります。
この規定の実務上の重要点は、算定方式が特別職給与法を経由して一般職の国家公務員の給与水準と連動する構造を持つことです。人事院が一般職の国家公務員の給与改定を国会・内閣に勧告(人事院勧告)した場合、通常は特別職給与法の改正も合わせて行われます。歳費法の期末手当はこの流れに準じて変動します。
具体的には、人事院勧告に基づいて一般職の国家公務員の期末・勤勉手当の支給月数が引き上げられた場合、特別職の給与も同じ方向で改定されます。歳費法第11条の2が特別職給与法等の例によって計算する構造をとっているため、特別職の給与改定があると歳費の期末手当も同様に変動します。このリンク構造は、国会議員の期末手当が国家公務員の賞与水準と切り離されていない原因の一つです。
期末手当の額は月額歳費を基礎として計算されます。月額歳費と乗率(支給月数相当)の積として算定される形をとるため、月額歳費の額が高い議長や副議長は、乗率が同じであれば一般議員より大きな額の期末手当を受け取ります。期末手当は年に2回、まとまった金額で支給されます。月額歳費の毎月支給に対して、期末手当は支給時期に集中した支給という性格を持ち、水準の変動が一度の支給に直接反映されます。
基準日に在職していることが支給の前提条件となっています。月の途中で退職した場合などは、在職期間に応じた扱いが生じます。歳費の期末手当の支給状況を確認する場合は、基準日における在職状況と、適用される支給割合の両方を確認します。
人事院勧告に伴う歳費改定の仕組みと2025年の論点
人事院勧告は、毎年8月ごろ、一般職の国家公務員の給与改定について政府・国会に対して行われる勧告です。勧告の内容に基づいて国会が一般職の国家公務員の給与(俸給・手当等)を改定すると、通常は特別職給与法の改正も合わせて行われます。国会議員の期末手当は、特別職給与法を経由したこの連動の仕組みの中に位置しています。
2025年の人事院勧告では、一般職の国家公務員について月例給と期末・勤勉手当の引き上げが勧告されました。この勧告に基づく改定が進むと、歳費法の期末手当も同様に引き上げられる方向で議論が進む構造があります。報道によれば、このまま改定が適用されれば月額換算で議員一人あたり約5万円程度に相当する引き上げになるとされ、物価高騰が続く中での国会議員の報酬引き上げとして世論の批判が強まりました。
世論の反発の背景には、実質賃金の伸び悩み、社会保険料等の負担増加、光熱費・食料品の値上がりなど、一般家計が広範な物価上昇圧力にさらされていた時期の状況がありました。そのような状況で国会議員が自らの報酬増額を受け取ることに対し、政党内部からも慎重な声が出ました。
国会議員の報酬水準を議員自身が審議・決定する構造(歳費は国会が改正する)は、制度論として以前から「お手盛り」と批判されてきました。この点は、今回の局面でも改めて指摘されました。ただし、勧告に基づく改定を据え置くことそのものも、国家公務員の給与水準と議員報酬の関係を整合的に扱うべきという観点から議論の余地があります。一般職の国家公務員が勧告に沿って給与が引き上げられる中で、議員だけが据え置かれることの制度的な整合性についての議論も存在します。
2025年秋から冬にかけて、与野党は期末手当の据え置きについて協議しました。自民党・公明党の連立与党と主要野党が協調して対応を検討し、2025年末の国会会期内での改正を目指す動きとなりました。
2025年12月の改正歳費法:期末手当据え置きの措置
2025年12月16日、改正歳費法と改正秘書給与法が成立しました。この改正の内容は、人事院勧告に基づく給与改定が行われた場合に生じる国会議員の期末手当の引き上げ分を支給せず、現行の支給水準に据え置く時限的な措置を設けるものでした。
改正秘書給与法は、国会議員の公設秘書(第一秘書・第二秘書・政策担当秘書)の給与について、国家公務員の給与改定に連動して生じる引き上げ分を同様に据え置く措置を講じたものです。歳費法改正と一体で処理された背景には、議員の報酬体系と秘書の給与が制度上密接に関係していることがあります。
この改正が時限的なものであったことは重要な点です。措置の効力期間が設けられており、衆議院の解散や一定時期の到来によって効力が終了する仕組みをとっていました。2026年1月、衆議院が解散されて国会が閉会し、解散に伴う衆議院議員全員の退職という状況が生じました。この結果、2025年12月改正の時限措置は延長されないまま効力を失う形となりました。
措置の効力が終了したことで、次の国会において改めて同様の措置を設けるかどうかが課題となりました。措置が切れた期間の処理については、2026年通常国会の審議において議論されることになりました。一度据え置き措置を設けておきながら解散で効力が失われるという経緯は、歳費の制度的安定性という観点から今後の立法論の論点の一つとなります。
2025年12月の改正成立時、与野党が比較的短期間で合意に達した点は注目されます。世論の批判が明確な局面では、党派を超えた対応が取られやすいことを示す例となりました。ただし、据え置き措置を繰り返すことで歳費の本来あるべき水準が不明確になるという制度論上の批判も一部にあり、根本的な歳費制度の見直しを求める意見は残っています。
2026年5月改正案の内容と参院での審議状況
2026年5月26日、国会議員の期末手当を現行水準に据え置く内容を含む歳費法改正案が衆議院本会議で可決・通過しました。この記事の作成時点(2026年5月27日)では参議院に送付されており、審議が続いています。
改正案の主な内容は、人事院勧告に連動した期末手当の引き上げ分を支給しないことで、現行の支給水準を一定期間維持するものです。報道によれば、据え置かれる増額分の規模は1回あたりの支給で、議長が約16万円、副議長が約11万円、一般議員が約9万円とされています。これは6月基準日(6月1日)と12月基準日(12月1日)それぞれの支給機会で生じる増加分に相当します。改定が適用された場合の1回あたりの支給額は、議長で約535万円、副議長で約390万円、一般議員で約319万円になるとされています。
据え置き期間については、2028年7月末まで、または次の衆議院議員総選挙が実施されるまでのいずれか早い時期が目安として示されています。この設定は、少なくとも次の衆院選が行われるまでは据え置きを継続するという方針を示すものです。選挙を挟むことで新たな民意を確認したうえで次の対応を判断するという考え方が反映されています。
改正案の提案は衆議院議院運営委員会によるもので、提案の理由として「中東情勢などの影響による物価高で家計が圧迫されている国民の現状を踏まえ、議員が自ら報酬の引き上げを受け取ることは国民の理解を得にくい」という趣旨の説明がなされました。物価上昇により生活が厳しくなっている国民感情への配慮を、据え置き措置の根拠として示したものです。
衆議院での採決では、自民党・立憲民主党・日本維新の会・公明党・国民民主党などの主要会派が賛成しました。一部の会派は反対しており、反対理由としては、据え置きを繰り返すことで歳費制度の実態が不透明になるという問題の指摘や、据え置きではなく歳費水準そのものの抜本的な見直しが必要だという意見が挙げられました。据え置き措置はあくまで引き上げを一時的に棚上げするものであり、歳費の体系的な改革とは異なるという見方です。
今回の改正案が参院で可決・成立した場合、2025年12月の時限措置が終了してから衆院通過までの空白期間(2026年1月以降)の扱いについても確認が必要です。2026年1月の解散後から同年5月の衆院通過までの間の期末手当の処理については、参院での審議の中で明らかになることが期待されます。
今回の改正は歳費法第11条の2(期末手当)を主な対象とするものです。文書通信交通滞在費(第9条)や立法事務費(第10条)、月額歳費(第1条)の水準については今回の改正の対象外です。議員報酬の全体的な見直しを求める声は継続しており、文書通信交通滞在費の使途開示義務の強化などを含む包括的な制度見直しについては、今後の国会での議論が予定されています。
参考リンク
この記事では、以下の公式・公的情報を参照しました。