第一章 総則
(目的)第一条 この法律は、女性が日常生活又は社会生活を営むに当たり女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み、困難な問題を抱える女性の福祉の増進を図るため、困難な問題を抱える女性への支援に関する必要な事項を定めることにより、困難な問題を抱える女性への支援のための施策を推進し、もって人権が尊重され、及び女性が安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)第二条 この法律において「困難な問題を抱える女性」とは、性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む。)をいう。
(基本理念)第三条 困難な問題を抱える女性への支援のための施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
一 女性の抱える問題が多様化するとともに複合化し、そのために複雑化していることを踏まえ、困難な問題を抱える女性が、それぞれの意思が尊重されながら、抱えている問題及びその背景、心身の状況等に応じた最適な支援を受けられるようにすることにより、その福祉が増進されるよう、その発見、相談、心身の健康の回復のための援助、自立して生活するための援助等の多様な支援を包括的に提供する体制を整備すること。
二 困難な問題を抱える女性への支援が、関係機関及び民間の団体の協働により、早期から切れ目なく実施されるようにすること。
三 人権の擁護を図るとともに、男女平等の実現に資することを旨とすること。
(国及び地方公共団体の責務)第四条 国及び地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、困難な問題を抱える女性への支援のために必要な施策を講ずる責務を有する。
(関連施策の活用)第五条 国及び地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援のための施策を講ずるに当たっては、必要に応じて福祉、保健医療、労働、住まい及び教育に関する施策その他の関連施策の活用が図られるよう努めなければならない。
(緊密な連携)第六条 国及び地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援のための施策を講ずるに当たっては、関係地方公共団体相互間の緊密な連携が図られるとともに、この法律に基づく支援を行う機関と福祉事務所(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所をいう。)、児童相談所、児童福祉施設(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設をいう。)、保健所、医療機関、職業紹介機関(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)第二条に規定する職業紹介機関をいう。)、職業訓練機関、教育機関、都道府県警察、日本司法支援センター(総合法律支援法(平成十六年法律第七十四号)第十三条に規定する日本司法支援センターをいう。)、配偶者暴力相談支援センター(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成十三年法律第三十一号)第三条第一項に規定する配偶者暴力相談支援センターをいう。)その他の関係機関との緊密な連携が図られるよう配慮しなければならない。
第二章 基本方針及び都道府県基本計画等
(基本方針)第七条 厚生労働大臣は、困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項につき、次条第一項の都道府県基本計画及び同条第三項の市町村基本計画の指針となるべきものを定めるものとする。一 困難な問題を抱える女性への支援に関する基本的な事項
二 困難な問題を抱える女性への支援のための施策の内容に関する事項
三 その他困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施に関する重要事項
3 厚生労働大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議しなければならない。 4 厚生労働大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 (都道府県基本計画等)第八条 都道府県は、基本方針に即して、当該都道府県における困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施に関する基本的な計画(以下この条において「都道府県基本計画」という。)を定めなければならない。
2 都道府県基本計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。一 困難な問題を抱える女性への支援に関する基本的な方針
二 困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施内容に関する事項
三 その他困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施に関する重要事項
3 市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、基本方針に即し、かつ、都道府県基本計画を勘案して、当該市町村における困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施に関する基本的な計画(以下この条において「市町村基本計画」という。)を定めるよう努めなければならない。 4 都道府県又は市町村は、都道府県基本計画又は市町村基本計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 5 厚生労働大臣は、都道府県又は市町村に対し、都道府県基本計画又は市町村基本計画の作成のために必要な助言その他の援助を行うよう努めなければならない。第三章 女性相談支援センターによる支援等
(女性相談支援センター)第九条 都道府県は、女性相談支援センターを設置しなければならない。
2 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)は、女性相談支援センターを設置することができる。 3 女性相談支援センターは、困難な問題を抱える女性への支援に関し、主として次に掲げる業務を行うものとする。一 困難な問題を抱える女性に関する各般の問題について、困難な問題を抱える女性の立場に立って相談に応ずること又は第十一条第一項に規定する女性相談支援員若しくは相談を行う機関を紹介すること。
二 困難な問題を抱える女性(困難な問題を抱える女性がその家族を同伴する場合にあっては、困難な問題を抱える女性及びその同伴する家族。次号から第五号まで及び第十二条第一項において同じ。)の緊急時における安全の確保及び一時保護を行うこと。
三 困難な問題を抱える女性の心身の健康の回復を図るため、医学的又は心理学的な援助その他の必要な援助を行うこと。
四 困難な問題を抱える女性が自立して生活することを促進するため、就労の支援、住宅の確保、援護、児童の保育等に関する制度の利用等について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
五 困難な問題を抱える女性が居住して保護を受けることができる施設の利用について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
4 女性相談支援センターは、その業務を行うに当たっては、その支援の対象となる者の抱えている問題及びその背景、心身の状況等を適切に把握した上で、その者の意向を踏まえながら、最適な支援を行うものとする。 5 女性相談支援センターに、所長その他所要の職員を置く。 6 女性相談支援センターには、第三項第二号の一時保護を行う施設を設けなければならない。 7 第三項第二号の一時保護は、緊急に保護することが必要と認められる場合その他厚生労働省令で定める場合に、女性相談支援センターが、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする。 8 前項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由がなく、その委託を受けた業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 9 第三項第二号の一時保護に当たっては、その対象となる者が監護すべき児童を同伴する場合には、当該児童の状況に応じて、当該児童への学習に関する支援が行われるものとする。 10 女性相談支援センターは、その業務を行うに当たっては、必要に応じ、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体との連携に努めるものとする。 11 前各項に定めるもののほか、女性相談支援センターに関し必要な事項は、政令で定める。 (女性相談支援センターの所長による報告等)第十条 女性相談支援センターの所長は、困難な問題を抱える女性であって配偶者のないもの又はこれに準ずる事情にあるもの及びその者の監護すべき児童について、児童福祉法第六条の三第十八項に規定する妊産婦等生活援助事業の実施又は同法第二十三条第二項に規定する母子保護の実施が適当であると認めたときは、これらの者を当該妊産婦等生活援助事業の実施又は当該母子保護の実施に係る都道府県又は市町村の長に報告し、又は通知しなければならない。
(女性相談支援員)第十一条 都道府県(女性相談支援センターを設置する指定都市を含む。第二十条第一項(第四号から第六号までを除く。)並びに第二十二条第一項及び第二項第一号において同じ。)は、困難な問題を抱える女性について、その発見に努め、その立場に立って相談に応じ、及び専門的技術に基づいて必要な援助を行う職務に従事する職員(以下「女性相談支援員」という。)を置くものとする。
2 市町村(女性相談支援センターを設置する指定都市を除く。第二十条第二項及び第二十二条第二項第二号において同じ。)は、女性相談支援員を置くよう努めるものとする。 3 女性相談支援員の任用に当たっては、その職務を行うのに必要な能力及び専門的な知識経験を有する人材の登用に特に配慮しなければならない。 (女性自立支援施設)第十二条 都道府県は、困難な問題を抱える女性を入所させて、その保護を行うとともに、その心身の健康の回復を図るための医学的又は心理学的な援助を行い、及びその自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うこと(以下「自立支援」という。)を目的とする施設(以下「女性自立支援施設」という。)を設置することができる。
2 都道府県は、女性自立支援施設における自立支援を、その対象となる者の意向を踏まえながら、自ら行い、又は市町村、社会福祉法人その他適当と認める者に委託して行うことができる。 3 女性自立支援施設における自立支援に当たっては、その対象となる者が監護すべき児童を同伴する場合には、当該児童の状況に応じて、当該児童への学習及び生活に関する支援が行われるものとする。 (民間の団体との協働による支援)第十三条 都道府県は、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体と協働して、その自主性を尊重しつつ、困難な問題を抱える女性について、その意向に留意しながら、訪問、巡回、居場所の提供、インターネットの活用、関係機関への同行その他の厚生労働省令で定める方法により、その発見、相談その他の支援に関する業務を行うものとする。
2 市町村は、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体と協働して、その自主性を尊重しつつ、困難な問題を抱える女性について、その意向に留意しながら、前項の業務を行うことができる。 (民生委員等の協力)第十四条 民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、児童福祉法に定める児童委員、人権擁護委員法(昭和二十四年法律第百三十九号)に定める人権擁護委員、保護司法(昭和二十五年法律第二百四号)に定める保護司及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業を営む者は、この法律の施行に関し、女性相談支援センター及び女性相談支援員に協力するものとする。
(支援調整会議)第十五条 地方公共団体は、単独で又は共同して、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うため、関係機関、第九条第七項又は第十二条第二項の規定による委託を受けた者、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体及び困難な問題を抱える女性への支援に従事する者その他の関係者(以下この条において「関係機関等」という。)により構成される会議(以下この条において「支援調整会議」という。)を組織するよう努めるものとする。
2 支援調整会議は、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うために必要な情報の交換を行うとともに、困難な問題を抱える女性への支援の内容に関する協議を行うものとする。 3 支援調整会議は、前項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。 4 関係機関等は、前項の規定による求めがあった場合には、これに協力するよう努めるものとする。 5 次の各号に掲げる支援調整会議を構成する関係機関等の区分に従い、当該各号に定める者は、正当な理由がなく、支援調整会議の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。一 国又は地方公共団体の機関 当該機関の職員又は職員であった者
二 法人 当該法人の役員若しくは職員又はこれらの者であった者
三 前二号に掲げる者以外の者 支援調整会議を構成する者又は当該者であった者
6 前各項に定めるもののほか、支援調整会議の組織及び運営に関し必要な事項は、支援調整会議が定める。第四章 雑則
(教育及び啓発)第十六条 国及び地方公共団体は、この法律に基づく困難な問題を抱える女性への支援に関し国民の関心と理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、自己がかけがえのない個人であることについての意識の養に資する教育及び啓発を含め、女性が困難な問題を抱えた場合にこの法律に基づく支援を適切に受けることができるようにするための教育及び啓発に努めるものとする。 (調査研究の推進)第十七条 国及び地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援に資するため、効果的な支援の方法、その心身の健康の回復を図るための方法等に関する調査研究の推進に努めるものとする。
(人材の確保等)第十八条 国及び地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援に従事する者の適切な処遇の確保のための措置、研修の実施その他の措置を講ずることにより、困難な問題を抱える女性への支援に係る人材の確保、養成及び資質の向上を図るよう努めるものとする。
(民間の団体に対する援助)第十九条 国及び地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体に対し、必要な援助を行うよう努めるものとする。
(都道府県及び市町村の支弁)第二十条 都道府県は、次に掲げる費用(女性相談支援センターを設置する指定都市にあっては、第一号から第三号までに掲げる費用に限る。)を支弁しなければならない。
一 女性相談支援センターに要する費用(次号に掲げる費用を除く。)
二 女性相談支援センターが行う第九条第三項第二号の一時保護(同条第七項に規定する厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行う場合を含む。)及びこれに伴い必要な事務に要する費用
三 都道府県が置く女性相談支援員に要する費用
四 都道府県が設置する女性自立支援施設の設備に要する費用
五 都道府県が行う自立支援(市町村、社会福祉法人その他適当と認める者に委託して行う場合を含む。)及びこれに伴い必要な事務に要する費用
六 第十三条第一項の規定により都道府県が自ら行い、又は民間の団体に委託して行う困難な問題を抱える女性への支援に要する費用
2 市町村は、市町村が置く女性相談支援員に要する費用を支弁しなければならない。 3 市町村は、第十三条第二項の規定により市町村が自ら行い、又は民間の団体に委託して行う困難な問題を抱える女性への支援に要する費用を支弁しなければならない。 (都道府県等の補助)第二十一条 都道府県は、社会福祉法人が設置する女性自立支援施設の設備に要する費用の四分の三以内を補助することができる。
2 都道府県又は市町村は、第十三条第一項又は第二項の規定に基づく業務を行うに当たって、法令及び予算の範囲内において、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体の当該活動に要する費用(前条第一項第六号の委託及び同条第三項の委託に係る委託費の対象となる費用を除く。)の全部又は一部を補助することができる。 (国の負担及び補助)第二十二条 国は、政令で定めるところにより、都道府県が第二十条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第一号及び第二号に掲げるものについては、その十分の五を負担するものとする。
2 国は、予算の範囲内において、次に掲げる費用の十分の五以内を補助することができる。一 都道府県が第二十条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第三号及び第五号に掲げるもの(女性相談支援センターを設置する指定都市にあっては、同項第三号に掲げるものに限る。)
二 市町村が第二十条第二項の規定により支弁した費用
3 国は、予算の範囲内において、都道府県が第二十条第一項の規定により支弁した費用のうち同項第六号に掲げるもの及び市町村が同条第三項の規定により支弁した費用並びに都道府県及び市町村が前条第二項の規定により補助した金額の全部又は一部を補助することができる。第五章 罰則
第二十三条 第九条第八項又は第十五条第五項の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
附則
(施行期日)
第一条 この法律は、令和六年四月一日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(検討)
第二条 政府は、この法律の公布後三年を目途として、この法律に基づく支援を受ける者の権利を擁護する仕組みの構築及び当該支援の質を公正かつ適切に評価する仕組みの構築について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。 政府は、前項に定める事項のほか、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(準備行為)
第三条 厚生労働大臣は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前においても、第七条第一項から第三項までの規定の例により、基本方針を定めることができる。 この場合において、厚生労働大臣は、同条第四項の規定の例により、これを公表することができる。 前項の規定により定められ、公表された基本方針は、施行日において、第七条第一項から第三項までの規定により定められ、同条第四項の規定により公表された基本方針とみなす。
(婦人補導院法の廃止)
第十条 婦人補導院法は、廃止する。
(婦人補導院法の廃止に伴う経過措置)
第十一条 旧婦人補導院法第十二条の規定による手当金の支給及び旧婦人補導院法第十九条の規定による遺留金品の措置については、なお従前の例による。 この場合において、これらに関する事務は、法務省令で定める法務省の職員が行うものとする。
(政令への委任)
第三十八条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
附則(令和四年六月一五日法律第六六号)
(施行期日)
第一条 この法律は、令和六年四月一日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(罰則に関する経過措置)
第十六条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(政令への委任)
第十七条 附則第三条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
附則(令和四年六月一七日法律第六八号)
この法律は、刑法等一部改正法施行日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。一 第五百九条の規定 公布の日