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平成三十年法律第百五号
健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法

施行日:

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第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は、脳卒中、心臓病その他の循環器病(以下単に「循環器病」という。)が国民の疾病による死亡の原因及び国民が介護を要する状態となる原因の主要なものとなっている等循環器病が国民の生命及び健康にとって重大な問題となっている現状に鑑み、循環器病の予防に取り組むこと等により国民の健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間をいう。)の延伸等を図り、あわせて医療及び介護に係る負担の軽減に資するため、循環器病に係る対策(以下「循環器病対策」という。)に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民及び保健、医療又は福祉の業務に従事する者の責務を明らかにし、並びに循環器病対策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、循環器病対策の基本となる事項を定めることにより、循環器病対策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

(基本理念)

第二条 循環器病対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

喫煙、食生活、運動その他の生活習慣の改善等による循環器病の予防及び循環器病を発症した疑いがある場合における迅速かつ適切な対応の重要性に関する国民の理解と関心を深めるようにすること。

循環器病を発症した疑いがある者の搬送及び医療機関による受入れの迅速かつ適切な実施、循環器病患者に対する良質かつ適切なリハビリテーションを含む医療(以下単に「医療」という。)の迅速な提供、循環器病患者及び循環器病の後遺症を有する者に対する福祉サービスの提供その他の循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供が、その居住する地域にかかわらず等しく、継続的かつ総合的に行われるようにすること。

循環器病に関する専門的、学際的又は総合的な研究が企業及び大学その他の研究機関の連携が図られつつ行われるようにその推進を図るとともに、循環器病に係る予防、診断、治療、リハビリテーション等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、及びその成果に関する情報を提供し、あわせて、企業等においてその成果を活用して商品又はサービスが開発され、及び提供されるようにすること。

(国の責務)

第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、循環器病対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、循環器病対策に関し、国との連携を図りつつ、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(医療保険者の責務)

第五条 医療保険者(高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)第七条第二項に規定する保険者及び同法第四十八条に規定する後期高齢者医療広域連合をいう。)は、国及び地方公共団体が講ずる循環器病の予防等に関する啓発及び知識の普及等の施策に協力するよう努めなければならない。

(国民の責務)

第六条 国民は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣及び生活環境、肥満その他の健康状態並びに高血圧症、脂質異常症、糖尿病、心房細動その他の疾病が循環器病の発症に及ぼす影響等循環器病に関する正しい知識を持ち、日常生活において循環器病の予防に積極的に取り組むよう努めるとともに、自己又はその家族等が循環器病を発症した疑いがある場合においては、できる限り迅速かつ適切に対応するよう努めなければならない。

(保健、医療又は福祉の業務に従事する者の責務)

第七条 保健、医療又は福祉の業務に従事する者は、国及び地方公共団体が講ずる循環器病対策に協力し、循環器病の予防等に寄与するよう努めるとともに、循環器病患者等に対し良質かつ適切な保健、医療又は福祉に係るサービスを提供するよう努めなければならない。

(法制上の措置等)

第八条 政府は、循環器病対策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

第二章 循環器病対策推進基本計画等

(循環器病対策推進基本計画)

第九条 政府は、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、循環器病対策の推進に関する基本的な計画(以下「循環器病対策推進基本計画」という。)を策定しなければならない。

2 循環器病対策推進基本計画に定める施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の時期を定めるものとする。

3 厚生労働大臣は、循環器病対策推進基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

4 厚生労働大臣は、循環器病対策推進基本計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、総務大臣その他の関係行政機関の長に協議するとともに、循環器病対策推進協議会の意見を聴くものとする。

5 政府は、循環器病対策推進基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

6 政府は、適時に、第二項の規定により定める目標の達成状況を調査し、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

7 政府は、循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況の変化、循環器病に関する研究の進展等を勘案し、並びに循環器病対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも六年ごとに、循環器病対策推進基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。

8 第三項から第五項までの規定は、循環器病対策推進基本計画の変更について準用する。

(関係行政機関への要請)

第十条 厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、総務大臣その他の関係行政機関の長に対して、循環器病対策推進基本計画の策定のための資料の提出又は循環器病対策推進基本計画において定められた施策であって当該行政機関の所管に係るものの実施について、必要な要請をすることができる。

(都道府県循環器病対策推進計画)

第十一条 都道府県は、循環器病対策推進基本計画を基本とするとともに、当該都道府県における循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況、循環器病に関する研究の進展等を踏まえ、当該都道府県における循環器病対策の推進に関する計画(以下「都道府県循環器病対策推進計画」という。)を策定しなければならない。

2 都道府県は、都道府県循環器病対策推進計画を策定しようとするときは、あらかじめ、循環器病対策に関係する者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めるとともに、第二十一条第一項の規定により都道府県循環器病対策推進協議会が置かれている場合にあっては、当該都道府県循環器病対策推進協議会の意見を聴かなければならない。

3 都道府県循環器病対策推進計画は、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第一項に規定する医療計画、健康増進法(平成十四年法律第百三号)第八条第一項に規定する都道府県健康増進計画、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十八条第一項に規定する都道府県介護保険事業支援計画、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第三十五条の五第一項に規定する実施基準その他の法令の規定による計画等であって保健、医療又は福祉に関する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。

4 都道府県は、当該都道府県における循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況の変化、循環器病に関する研究の進展等を勘案し、並びに当該都道府県における循環器病対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも六年ごとに、都道府県循環器病対策推進計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更するよう努めなければならない。

5 第二項の規定は、都道府県循環器病対策推進計画の変更について準用する。

第三章 基本的施策

(循環器病の予防等の推進)

第十二条 国及び地方公共団体は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣及び生活環境、肥満その他の健康状態並びに高血圧症、脂質異常症、糖尿病、心房細動その他の疾病が循環器病の発症に及ぼす影響並びに循環器病を発症した疑いがある場合の対応方法に関する啓発及び知識の普及、禁煙及び受動喫煙の防止に関する取組の推進その他の循環器病の予防等の推進のために必要な施策を講ずるものとする。

(循環器病を発症した疑いがある者の搬送及び受入れの実施に係る体制の整備等)

第十三条 国及び地方公共団体は、循環器病を発症した疑いがある者の搬送及び医療機関による受入れの迅速かつ適切な実施を図るため、当該者の搬送及び受入れの実施に係る体制を整備するために必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、救急救命士及び救急隊員が、傷病者の搬送に当たって、当該傷病者について循環器病を発症した疑いがあるかどうかを判断し、適切な処置を行うことができるよう、救急救命士及び救急隊員に対する研修の機会の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。

(医療機関の整備等)

第十四条 国及び地方公共団体は、循環器病患者がその居住する地域にかかわらず等しくその状態に応じた良質かつ適切な医療を受けることができるよう、専門的な循環器病に係る医療の提供等を行う医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、循環器病患者及び循環器病患者であった者に対し良質かつ適切な医療が提供され、並びにこれらの者の循環器病の再発の防止が図られるよう、国立研究開発法人国立循環器病研究センター、前項の医療機関その他の医療機関等の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

(循環器病患者等の生活の質の維持向上)

第十五条 国及び地方公共団体は、循環器病患者及び循環器病の後遺症を有する者の福祉の増進を図るため、これらの者の社会的活動への参加の促進その他の生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする。

(保健、医療及び福祉に係る関係機関の連携協力体制の整備)

第十六条 国及び地方公共団体は、循環器病を発症した疑いがある者の搬送及び医療機関による受入れの迅速かつ適切な実施、循環器病患者に対する良質かつ適切な医療の迅速な提供、循環器病患者及び循環器病の後遺症を有する者に対する福祉サービスの提供その他の循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供が、その居住する地域にかかわらず等しく、継続的かつ総合的に行われるよう、消防機関、医療機関その他の関係機関の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

(保健、医療又は福祉の業務に従事する者の育成等)

第十七条 国及び地方公共団体は、循環器病に係る保健、医療又は福祉の業務に従事する者に対する研修の機会の確保その他のこれらの者の育成及び資質の向上のために必要な施策を講ずるものとする。

(情報の収集提供体制の整備等)

第十八条 国及び地方公共団体は、循環器病に係る保健、医療及び福祉に関する情報(次項に規定する症例に係る情報を除く。)の収集及び提供を行う体制を整備するために必要な施策を講ずるとともに、循環器病患者及び循環器病患者であった者並びにこれらの者の家族その他の関係者に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、循環器病に係る予防、診断、治療、リハビリテーション等に関する方法の開発及び医療機関等におけるその成果の活用に資するため、国立研究開発法人国立循環器病研究センター及び循環器病に係る医学医術に関する学術団体の協力を得て、全国の循環器病に関する症例に係る情報の収集及び提供を行う体制を整備するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

(研究の促進等)

第十九条 国及び地方公共団体は、革新的な循環器病に係る予防、診断、治療、リハビリテーション等に関する方法及び循環器病に係る医療のための医薬品等(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。次項において「医薬品医療機器等法」という。)第二条第一項に規定する医薬品、同条第四項に規定する医療機器及び同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。次項において同じ。)の開発その他の循環器病の発症率及び循環器病による死亡率の低下等に資する事項についての企業及び大学その他の研究機関による共同研究その他の研究が促進され、並びにその成果が活用されるよう必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、循環器病に係る医療を行う上で特に必要性が高い医薬品等の早期の医薬品医療機器等法の規定による製造販売の承認に資するようその治験が迅速かつ確実に行われ、及び標準的な循環器病の治療方法の開発に係る臨床研究が円滑に行われる環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする。

第四章 循環器病対策推進協議会等

(循環器病対策推進協議会)

第二十条 厚生労働省に、循環器病対策推進基本計画に関し、第九条第四項(同条第八項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、循環器病対策推進協議会(以下この条において「協議会」という。)を置く。

2 協議会は、委員二十人以内で組織する。

3 協議会の委員は、循環器病患者及び循環器病患者であった者並びにこれらの者の家族又は遺族を代表する者、救急業務に従事する者、循環器病に係る保健、医療又は福祉の業務に従事する者並びに学識経験のある者のうちから、厚生労働大臣が任命する。

4 協議会の委員は、非常勤とする。

5 前三項に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

(都道府県循環器病対策推進協議会)

第二十一条 都道府県は、都道府県循環器病対策推進計画に関し、第十一条第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、都道府県循環器病対策推進協議会(以下この条において「都道府県協議会」という。)を置くよう努めなければならない。

2 都道府県協議会は、循環器病患者及び循環器病患者であった者並びにこれらの者の家族又は遺族を代表する者、救急業務に従事する者、循環器病に係る保健、医療又は福祉の業務に従事する者、学識経験のある者その他の都道府県が必要と認める者をもって構成する。

附則

(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(検討)
第二条 政府は、肺塞栓症、感染性心内膜炎、末期腎不全その他の通常の循環器病対策では予防することができない循環器病等に係る研究を推進するとともに、その対策について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるほか、歯科疾患と循環器病の発症との関係に係る研究を推進するものとする。 政府は、前項に定めるもののほか、糖尿病に起因して人工透析を受けている者等で下肢末動脈疾患を有するものが適切な診断及び治療を受けられなければその予後に著しい悪影響を及ぼすことが多いことに鑑み、糖尿病に起因して人工透析を受けている者等及びこれらの者の家族に対する下肢末梢動脈疾患の重症化の予防に関する知識の普及、人工透析を実施する医療機関と専門的な下肢末梢動脈疾患に係る医療の提供を行う医療機関の間における連携協力体制の整備、人工透析を実施する医療機関において医療の業務に従事する者の下肢末梢動脈疾患の重症度の評価等に関する知識の習得の促進等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

第三条 政府は、てんかん、失語症等の脳卒中の後遺症を有する者が適切な診断及び治療を受けること並びにその社会参加の機会が確保されることが重要であること等に鑑み、脳卒中の後遺症に関する啓発及び知識の普及、脳卒中の後遺症に係る医療の提供を行う医療機関の整備及び当該医療機関その他の医療機関等の間における連携協力体制の整備、脳卒中の後遺症を有する者が社会生活を円滑に営むために必要な支援体制の整備等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。