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平成十八年法律第百十七号
観光立国推進基本法

施行日:

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観光基本法(昭和三十八年法律第百七号)の全部を改正する。

 観光は、国際平和と国民生活の安定を象徴するものであって、その持続的な発展は、恒久の平和と国際社会の相互理解の増進を念願し、健康で文化的な生活を享受しようとする我らの理想とするところである。また、観光は、地域経済の活性化、雇用の機会の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、健康の増進、潤いのある豊かな生活環境の創造等を通じて国民生活の安定向上に貢献するものであることに加え、国際相互理解を増進するものである。

 我らは、このような使命を有する観光が、今後、我が国において世界に例を見ない水準の少子高齢社会の到来と本格的な国際交流の進展が見込まれる中で、地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の実現を促進し、我が国固有の文化、歴史等に関する理解を深めるものとしてその意義を一層高めるとともに、豊かな国民生活の実現と国際社会における名誉ある地位の確立に極めて重要な役割を担っていくものと確信する。

 しかるに、現状をみるに、観光がその使命を果たすことができる観光立国の実現に向けた環境の整備は、いまだ不十分な状態である。また、国民のゆとりと安らぎを求める志向の高まり等を背景とした観光旅行者の需要の高度化、少人数による観光旅行の増加等観光旅行の形態の多様化、観光分野における国際競争の一層の激化等の近年の観光をめぐる諸情勢の著しい変化への的確な対応は、十分に行われていない。これに加え、我が国を来訪する外国人観光旅客数等の状況も、国際社会において我が国の占める地位にふさわしいものとはなっていない。

 これらに適切に対処し、地域において国際競争力の高い魅力ある観光地を形成するとともに、観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成、国際観光の振興を図ること等により、観光立国を実現することは、二十一世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠な重要課題である。

 ここに、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は、二十一世紀の我が国経済社会の発展のために観光立国を実現することが極めて重要であることにかんがみ、観光立国の実現に関する施策に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、観光立国の実現に関する施策の基本となる事項を定めることにより、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民経済の発展、国民生活の安定向上及び国際相互理解の増進に寄与することを目的とする。

(施策の基本理念)

第二条 観光立国の実現に関する施策は、地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展を通じて国内外からの観光旅行を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要であるという認識の下に講ぜられなければならない。

2 観光立国の実現に関する施策は、観光が健康的でゆとりのある生活を実現する上で果たす役割の重要性にかんがみ、国民の観光旅行の促進が図られるよう講ぜられなければならない。

3 観光立国の実現に関する施策は、観光が国際相互理解の増進とこれを通じた国際平和のために果たす役割の重要性にかんがみ、国際的視点に立って講ぜられなければならない。

4 観光立国の実現に関する施策を講ずるに当たっては、観光産業が、多様な事業の分野における特色ある事業活動から構成され、多様な就業の機会を提供すること等により我が国及び地域の経済社会において重要な役割を担っていることにかんがみ、国、地方公共団体、住民、事業者等による相互の連携が確保されるよう配慮されなければならない。

(国の責務)

第三条 国は、前条の施策の基本理念(次条第一項において「基本理念」という。)にのっとり、観光立国の実現に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、観光立国の実現に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、自主的かつ主体的に、その地方公共団体の区域の特性を生かした施策を策定し、及び実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、前項の施策を実施するに当たっては、その効果的な実施を図るため地方公共団体相互の広域的な連携協力に努めなければならない。

(住民の役割)

第五条 住民は、観光立国の意義に対する理解を深め、魅力ある観光地の形成に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

(観光事業者の努力)

第六条 観光に関する事業(第十六条において「観光事業」という。)を営む者(以下「観光事業者」という。)は、その事業活動を行うに際しては、住民の福祉に配慮するとともに、観光立国の実現に主体的に取り組むよう努めるものとする。

(法制上の措置等)

第七条 政府は、観光立国の実現に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。

(年次報告等)

第八条 政府は、毎年、国会に、観光の状況及び政府が観光立国の実現に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。

2 政府は、毎年、交通政策審議会の意見を聴いて、前項の報告に係る観光の状況を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。

(交通政策審議会への諮問等)

第九条 交通政策審議会は、国土交通大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、観光立国の実現に関する重要事項を調査審議する。

2 交通政策審議会は、前項に規定する事項に関し、国土交通大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。

3 交通政策審議会は、前二項に規定する事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

第二章 観光立国推進基本計画

(観光立国推進基本計画の策定等)

第十条 政府は、観光立国の実現に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、観光立国の実現に関する基本的な計画(以下「観光立国推進基本計画」という。)を定めなければならない。

2 観光立国推進基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

観光立国の実現に関する施策についての基本的な方針

観光立国の実現に関する目標

観光立国の実現に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策

前三号に掲げるもののほか、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 国土交通大臣は、交通政策審議会の意見を聴いて、観光立国推進基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

4 国土交通大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、観光立国推進基本計画を国会に報告するとともに、公表しなければならない。

5 前二項の規定は、観光立国推進基本計画の変更について準用する。

(観光立国推進基本計画と国の他の計画との関係)

第十一条 観光立国推進基本計画以外の国の計画は、観光立国の実現に関しては、観光立国推進基本計画を基本とするものとする。

第三章 基本的施策

第一節 国際競争力の高い魅力ある観光地の形成

(国際競争力の高い魅力ある観光地の形成)

第十二条 国は、国際競争力の高い魅力ある観光地の形成を図るため、地方公共団体と観光事業者その他の関係者との連携による観光地の特性を生かした良質なサービスの提供の確保並びに宿泊施設、食事施設、案内施設その他の旅行に関連する施設(以下「旅行関連施設」という。)及び公共施設の整備等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成)

第十三条 国は、観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成を図るため、史跡、名勝、天然記念物等の文化財、歴史的風土、優れた自然の風景地、良好な景観、温泉その他文化、産業等に関する観光資源の保護、育成及び開発に必要な施策を講ずるものとする。

(観光旅行者の来訪の促進に必要な交通施設の総合的な整備)

第十四条 国は、観光旅行者の国際競争力の高い魅力ある観光地への来訪の促進に必要な交通施設の総合的な整備を図るため、国際交通機関及びこれに関連する施設並びに国際競争力の高い魅力ある観光地及びその観光地間を連絡する経路における空港、港湾、鉄道、道路、駐車場、旅客船その他の観光の基盤となる交通施設の整備等に必要な施策を講ずるものとする。

第二節 観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成

(観光産業の国際競争力の強化)

第十五条 国は、観光産業の国際競争力の強化を図るため、観光事業者相互の有機的な連携の推進、観光旅行者の需要の高度化及び観光旅行の形態の多様化に対応したサービスの提供の確保等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光の振興に寄与する人材の育成)

第十六条 国は、観光の振興に寄与する人材の育成を図るため、観光地及び観光産業の国際競争力の強化に資する高等教育の充実、観光事業に従事する者の知識及び能力の向上、地域の固有の文化、歴史等に関する知識の普及の促進等に必要な施策を講ずるものとする。

第三節 国際観光の振興

(外国人観光旅客の来訪の促進)

第十七条 国は、外国人観光旅客の来訪の促進を図るため、我が国の伝統、文化等を生かした海外における観光宣伝活動の重点的かつ効果的な実施、国内における交通、宿泊その他の観光旅行に要する費用に関する情報の提供、国際会議その他の国際的な規模で開催される行事の誘致の促進、外国人観光旅客の出入国に関する措置の改善、通訳案内のサービスの向上その他の外国人観光旅客の受入れの体制の確保等に必要な施策を講ずるものとする。

(国際相互交流の促進)

第十八条 国は、観光分野における国際相互交流の促進を図るため、外国政府との協力の推進、我が国と外国との間における地域間の交流の促進、青少年による国際交流の促進等に必要な施策を講ずるものとする。

第四節 観光旅行の促進のための環境の整備

(観光旅行の容易化及び円滑化)

第十九条 国は、観光旅行の容易化及び円滑化を図るため、休暇に関する制度の改善その他休暇の取得の促進、観光旅行の需要の特定の時季への集中の緩和、観光事業者の不当な営利行為の防止その他の観光に係る消費者の利益の擁護、観光の意義に対する国民の理解の増進等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光旅行者に対する接遇の向上)

第二十条 国は、観光旅行者に対する接遇の向上を図るため、接遇に関する教育の機会の提供、旅行関連施設の整備、我が国の伝統のある優れた食文化その他の生活文化、産業等の紹介の強化、我が国又は地域の特色を生かした魅力ある商品の開発等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光旅行者の利便の増進)

第二十一条 国は、観光旅行者の利便の増進を図るため、高齢者、障害者、外国人その他特に配慮を要する観光旅行者が円滑に利用できる旅行関連施設及び公共施設の整備及びこれらの利便性の向上、情報通信技術を活用した観光に関する情報の提供等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光旅行の安全の確保)

第二十二条 国は、観光旅行の安全の確保を図るため、国内外の観光地における事故、災害等の発生の状況に関する情報の提供、観光旅行における事故の発生の防止等に必要な施策を講ずるものとする。

(新たな観光旅行の分野の開拓)

第二十三条 国は、新たな観光旅行の分野の開拓を図るため、自然体験活動、農林漁業に関する体験活動等を目的とする観光旅行、心身の健康の保持増進のための観光旅行その他の多様な観光旅行の形態の普及等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光地における環境及び良好な景観の保全)

第二十四条 国は、観光地における環境及び良好な景観の保全を図るため、観光旅行者による自然体験活動を通じた環境の保全に関する知識の普及及び理解の増進、屋外広告物に関する制限等に必要な施策を講ずるものとする。

(観光に関する統計の整備)

第二十五条 国は、観光立国の実現に関する施策の策定及び実施に資するため、観光旅行に係る消費の状況に関する統計、観光旅行者の宿泊の状況に関する統計その他の観光に関する統計の整備に必要な施策を講ずるものとする。

第四章 国及び地方公共団体の協力等

(国及び地方公共団体の協力等)

第二十六条 国及び地方公共団体は、観光立国の実現に関する施策を講ずるにつき、相協力するとともに、行政組織の整備及び行政運営の改善に努めるものとする。

(団体の整備)

第二十七条 国は、観光立国の実現に関し、民間の活力が十分に発揮されるよう観光立国の実現に関する団体の整備に必要な施策を講ずるものとする。

附則

(施行期日)
第一条 この法律は、平成十九年一月一日から施行する。