第一章 総則
(目的)第一条 この法律は、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、並びに学術の進歩、産業の振興及び地球温暖化の防止を図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)第二条 原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。 3 エネルギーとしての原子力利用は、国及び原子力事業者(原子力発電に関する事業を行う者をいう。第二条の三及び第二条の四において同じ。)が安全神話に陥り、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を防止することができなかつたことを真摯に反省した上で、原子力事故(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第一項に規定する原子炉の運転等に起因する事故をいう。以下同じ。)の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立つて、これを行うものとする。 (国の責務)第二条の二 国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二条の二に規定する脱炭素社会をいう。第十六条の二第二項において同じ。)の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源(エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成二十一年法律第七十二号)第二条第二項に規定する非化石エネルギー源をいう。第十六条の二第二項において同じ。)の利用の促進及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資することができるよう、必要な措置を講ずる責務を有する。
2 国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力施設(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。次条第四号及び第二条の四第一項において「原子炉等規制法」という。)第二条第七項に規定する原子力施設をいう。以下同じ。)の安全性の向上に不断に取り組むこと等によりその安全性を確保することを前提として、原子力事故による災害の防止に関し万全の措置を講じつつ、原子力施設が立地する地域及び電力の大消費地である都市の住民をはじめとする国民の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解と協力を得るために必要な取組並びに地域振興その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組を推進する責務を有する。 (原子力利用に関する基本的施策)第二条の三 国は、原子力発電を適切に活用することができるよう、原子力施設の安全性を確保することを前提としつつ、次に掲げる施策その他の必要な施策を講ずるものとする。
一 原子力発電に係る高度な技術の維持及び開発を促進し、これらを行う人材の育成及び確保を図り、並びに当該技術の維持及び開発のために必要な産業基盤を維持し、及び強化するための施策
二 原子力に関する研究及び開発に取り組む事業者、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構その他の関係者の相互の連携並びに当該研究及び開発に関する国際的な連携を強化するための施策その他の当該研究及び開発の推進並びにこれらの成果の円滑な実用化を図るための施策
三 電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うことその他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策
四 原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律(平成十七年法律第四十八号)第二条第四項に規定する再処理等、同条第一項に規定する使用済燃料に係るその貯蔵能力の増加その他の対策及び原子炉等規制法第四十三条の三の三十三第一項に規定する廃止措置の円滑かつ着実な実施を図るための関係地方公共団体との調整その他の必要な施策
五 最終処分(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成十二年法律第百十七号)第二条第二項に規定する最終処分をいう。以下この号において同じ。)に関する国民の理解を促進するための施策、最終処分の計画的な実施に向けた地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛け、同法第六条第二項に規定する文献調査対象地区又は同法第三条第二項第二号に規定する概要調査地区等をその区域に含む地方公共団体、最終処分に理解と関心を有する地方公共団体その他の関係者に対する関係府省の連携による支援、最終処分に関する研究開発の推進を図るための国際的な連携並びに原子力発電環境整備機構及び原子力事業者との連携の強化その他の最終処分の円滑かつ着実な実施を図るために必要な施策
(原子力事業者の責務)第二条の四 原子力事業者は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力事故の発生の防止及び原子炉等規制法第二条第六項に規定する特定核燃料物質の防護のために必要な措置を講じ、並びにその内容を不断に見直し、その他原子力施設の安全性の向上を図るための態勢を充実強化し、並びに関係地方公共団体その他の関係機関と連携しながら原子力事故に対処するための防災の態勢を充実強化するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2 原子力事業者は、原子力施設が立地する地域の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解を得ることがその事業の円滑な実施を図る上で極めて重要であることに鑑み、そのために必要な取組を推進しながら、国又は地方公共団体が実施する地域振興その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組に協力する責務を有する。 (定義)第三条 この法律において次に掲げる用語は、次の定義に従うものとする。
一 「原子力」とは、原子核変換の過程において原子核から放出されるすべての種類のエネルギーをいう。
二 「核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるものをいう。
三 「核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱その他核燃料物質の原料となる物質であつて、政令で定めるものをいう。
四 「原子炉」とは、核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。 ただし、政令で定めるものを除く。
五 「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。
第一章の二 原子力規制委員会
第三条の二 原子力利用における安全の確保を図るため、別に法律で定めるところにより、環境省の外局として、原子力規制委員会を置く。
第一章の三 原子力防災会議
(設置)第三条の三 内閣に、原子力防災会議(以下「会議」という。)を置く。
(所掌事務)第三条の四 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 原子力災害対策指針(原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第六条の二第一項に規定する原子力災害対策指針をいう。)に基づく施策の実施の推進その他の原子力事故が発生した場合に備えた政府の総合的な取組を確保するための施策の実施の推進
二 原子力事故が発生した場合において多数の関係者による長期にわたる総合的な取組が必要となる施策の実施の推進
(組織)第三条の五 会議は、議長、副議長及び議員をもつて組織する。
2 議長は、内閣総理大臣をもつて充てる。 3 副議長は、内閣官房長官、環境大臣、内閣官房長官及び環境大臣以外の国務大臣のうちから内閣総理大臣が指名する者並びに原子力規制委員会委員長をもつて充てる。 4 議員は、次に掲げる者をもつて充てる。一 議長及び副議長以外の全ての国務大臣並びに内閣危機管理監
二 内閣官房副長官、環境副大臣若しくは関係府省の副大臣、環境大臣政務官若しくは関係府省の大臣政務官又は国務大臣以外の関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が任命する者
(事務局)第三条の六 会議に、その事務を処理させるため、事務局を置く。
2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。 3 事務局長は、環境大臣をもつて充てる。 4 事務局長は、議長の命を受け、命を受けた内閣官房副長官補及び内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四条第三項に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣の協力を得て、局務を掌理する。 (政令への委任)第三条の七 この法律に定めるもののほか、会議に関し必要な事項は、政令で定める。
第二章 原子力委員会
(設置)第四条 原子力利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため、内閣府に原子力委員会を置く。
(任務)第五条 原子力委員会は、原子力利用に関する事項(安全の確保のうちその実施に関するものを除く。)について企画し、審議し、及び決定する。
(組織、運営及び権限)第六条 原子力委員会の組織、運営及び権限については、別に法律で定める。
第三章 原子力の開発機関
(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)第七条 原子力に関する基礎的研究及び応用の研究並びに核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理等に関する技術の開発並びにこれらの成果の普及等は、第二条に規定する基本方針に基づき、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構において行うものとする。
第四章 原子力に関する鉱物の開発取得
(鉱業法の特例)第八条 核原料物質に関する鉱業権又は租鉱権に関しては、別に法律をもつて、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)の特例を定めるものとする。
(買取命令及び譲渡命令)第九条 政府は、別に法律で定めるところにより、その指定する者に対し、核原料物質を買い取るべきことを命じ、又は核原料物質の生産者又は所有者若しくは管理者に対し、政府の指定する者に核原料物質を譲渡すべきことを命ずることができる。
(核原料物質の管理)第十条 核原料物質の輸入、輸出、譲渡、譲受及び精錬は、別に法律で定めるところにより、政府の指定する者に限つてこれを行わしめるものとする。
(奨励金等)第十一条 政府は、核原料物質の開発に寄与する者に対し、予算の範囲内において奨励金又は賞金を交付することができる。
第五章 核燃料物質の管理
(核燃料物質に関する規制)第十二条 核燃料物質を生産し、輸入し、輸出し、所有し、所持し、譲渡し、譲り受け、使用し、又は輸送しようとする者は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。
(核燃料物質の譲渡命令)第十三条 政府は、前条に規定する規制を行う場合において、別に法律で定めるところにより、核燃料物質を所有し、又は所持する者に対し、譲渡先及び価格を指示してこれを譲渡すべきことを命ずることができる。
第六章 原子炉の管理
(原子炉の建設等の規制)第十四条 原子炉を建設しようとする者は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。 これを改造し、又は移動しようとする者も、同様とする。
第十五条 原子炉を譲渡し、又は譲り受けようとする者は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。
第十六条 前二条に規定する規制に従つて原子炉を建設し、改造し、移動し、又は譲り受けた者は、別に法律で定めるところにより、操作開始前に運転計画を定めて、政府の認可を受けなければならない。
第七章 特許発明等に対する措置
(特許法による措置)第十七条 政府は、原子力に関する特許発明につき、公益上必要があると認めるときは、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第九十三条の規定により措置するものとする。
(譲渡制限)第十八条 原子力に関する特許発明、技術等の国外流出に係る契約の締結は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。
(奨励金等)第十九条 政府は、原子力に関する特許出願に係る発明又は特許発明に関し、予算の範囲内において奨励金又は賞金を交付することができる。
第八章 放射線による障害の防止
(放射線による障害の防止措置)第二十条 放射線による障害を防止し、公共の安全を確保するため、放射性物質及び放射線発生装置に係る製造、販売、使用、測定等に対する規制その他保安及び保健上の措置に関しては、別に法律で定める。
第九章 補償
(補償)第二十一条 政府又は政府の指定する者は、この法律及びこの法律を施行する法律に基き、核原料物質の開発のためその権限を行う場合において、土地に関する権利、鉱業権又は租鉱権その他の権利に関し、権利者及び関係人に損失を与えた場合においては、それぞれ法律で定めるところにより、正当な補償を行わなければならない。
附則
この法律は、昭和三十一年一月一日から施行する。附則(昭和四二年七月二〇日法律第七二号)
この法律は、公布の日から施行する。 ただし、第七条の改正規定は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。附則(昭和五三年七月五日法律第八六号)
(施行期日)
第一条 この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる日から施行する。
附則(平成一〇年五月二〇日法律第六二号)
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附則(平成一一年七月一六日法律第一〇二号)
(施行期日)
第一条 この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(別に定める経過措置)
第三十条 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる経過措置は、別に法律で定める。
附則(平成一六年一二月三日法律第一五五号)
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。 ただし、附則第十条から第十二条まで、第十四条から第十七条まで、第十八条第一項及び第三項並びに第十九条から第三十二条までの規定は、平成十七年十月一日から施行する。
附則(平成二四年六月二七日法律第四七号)
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(その他の経過措置の政令への委任)
第八十七条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
附則(平成二六年六月一三日法律第六七号)
(施行期日)
第一条 この法律は、独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成二十六年法律第六十六号。以下「通則法改正法」という。)の施行の日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(処分等の効力)
第二十八条 この法律の施行前にこの法律による改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の規定によってした又はすべき処分、手続その他の行為であってこの法律による改正後のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。以下この条において「新法令」という。)に相当の規定があるものは、法律(これに基づく政令を含む。)に別段の定めのあるものを除き、新法令の相当の規定によってした又はすべき処分、手続その他の行為とみなす。
(その他の経過措置の政令等への委任)
第三十条 附則第三条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令(人事院の所掌する事項については、人事院規則)で定める。
附則(令和五年六月七日法律第四四号)
(施行期日)
第一条 この法律は、令和六年四月一日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(原子力基本法の一部改正に伴う経過措置)
第十五条 附則第一条第一号に掲げる規定の施行の日から施行日の前日までの間における第五条の規定(同号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の原子力基本法(次条及び附則第十八条第二項において「新原子力基本法」という。)第二条の三第四号の規定の適用については、同号中「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」とあるのは、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」とする。
第十六条 附則第一条第一号に掲げる規定の施行の日から第四号施行日の前日までの間における新原子力基本法第二条の二第一項の規定の適用については、同項中「いう。第十六条の二第二項において同じ」とあるのは、「いう」とする。
(政令への委任)
第二十六条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。