スタートアップを法人として始める場合、会社法と商業登記の確認が入口になります。株式会社にするのか、合同会社にするのか、定款をどう作るのか、いつ会社が成立するのかを分けて見ます。

この記事では、会社設立時に確認したい法令と公式資料を整理します。個別の会社形態、定款内容、登記申請書類の適否を判断するものではありません。

会社設立に関わる主な法令は、会社法(株式会社・合同会社の設立手続・機関設計等)と商業登記法(登記申請手続・登記事項・添付書類等)です。会社の設立登記申請は、法務局(登記所)に対して行います。法務省は設立登記の手続書類・登録免許税・申請方法をウェブサイトで案内しており、紙申請のほかオンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)も利用できます。設立後には税務署・都道府県・市区町村への届出や、社会保険・労働保険の適用手続が続くため、設立段階から各手続の担当窓口を把握しておくことが有効です。

会社形態を決める

会社法では、株式会社と持分会社が定められています。持分会社には、合名会社、合資会社、合同会社があります。スタートアップでは、外部投資家からの資金調達やストックオプション設計を見据えて株式会社が選ばれることがありますが、必ず株式会社が適しているとは限りません。

会社形態を考えるときは、出資者、経営者、将来の資金調達、意思決定、利益配分、登記費用、税務、投資家の希望などを分けて確認します。合同会社は定款自治の範囲が広い一方、株式や新株予約権を使った資金調達とは前提が異なります。

近年、ベンチャーキャピタルからの出資を想定するスタートアップは株式会社を選ぶことが多いですが、外資系企業の日本子会社や特定のファンドスキームでは合同会社(LLC)を利用する場合もあります。合同会社は設立登記費用が株式会社より低く(登録免許税の最低額6万円)、公証人の定款認証も不要ですが、持分の譲渡・社員の加入・脱退には原則として全員一致が必要であるなど、機動性において株式会社と異なる部分があります。

既存記事の会社法とは:条文構成と会社制度の基本では、会社法全体の構成を確認できます。

株式会社設立で見る手続

株式会社を設立する場合、発起人、定款、出資の履行、設立時役員、設立登記を確認します。法務省は、株式会社は本店所在地において設立登記をすることによって成立すると説明しています。

発起設立では、発起人が定款を作成し、公証人の認証を受け、出資の履行を行い、設立時取締役等を選任し、設立登記を申請する流れになります。定款には、目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額または最低額、発起人の氏名または名称などが関係します。

設立登記では、会社の目的、商号、本店、資本金、発行可能株式総数、役員、公告方法などが登記事項になります。必要書類は会社の機関設計や現物出資の有無により変わります。

定款には法律上の必要的記載事項(絶対的記載事項)と任意的記載事項があります。発起設立の場合、公証人による定款認証(認証手数料・謄本交付費用等が必要)が定款の効力発生要件です。資本金の払込みは、発起人の個人口座への入金で行い、通帳のコピーが添付書類になります。設立登記の登録免許税は、資本金の0.7%(最低15万円)です。法務局への申請書類・添付書類・書式は、法務省ウェブサイトや法務局窓口で確認できます。

法人設立ワンストップサービス

法人設立後には、登記だけでなく、税務署、年金事務所、自治体、労働保険、社会保険など複数の手続が関係します。法人設立ワンストップサービスは、法人設立に関連する手続をオンラインでまとめて申請できるサービスとして案内されています。

ただし、すべての会社に同じ手続が必要になるわけではありません。従業員の有無、役員報酬、所在地、業種、許認可、社会保険、税務届出により確認先が変わります。

会社設立時は、設立登記、税務、社会保険、労働保険、許認可、銀行口座、契約書、会計ソフト、電子証明書などを別々に整理すると見落としにくくなります。

法人設立ワンストップサービスは、設立登記申請後に必要となる税務署(法人設立届出書等)・年金事務所(新規適用届等)・都道府県・市区町村への届出の一部を、マイナポータルを通じてオンラインで申請できる仕組みです。全ての手続がオンライン対応しているわけではなく、業種によっては別途行政窓口での手続が必要です。e-Gov・マイナポータル・法務省ウェブサイトで最新の対象手続・操作方法を確認することが推奨されます。

設立前に確認すること

スタートアップの設立前には、法令手続だけでなく、共同創業者間の合意も重要です。株式比率、役割、報酬、退任時の株式、知財の帰属、競業、秘密保持などは、設立後のトラブルにつながりやすい領域です。

設立前に確認したい項目は次のとおりです。

  1. 会社形態と商号
  2. 事業目的と許認可の有無
  3. 本店所在地
  4. 資本金と出資者
  5. 役員構成と代表者
  6. 株式比率と将来の資金調達方針
  7. 知財と秘密情報の帰属
  8. 税務・社会保険・労務手続

この記事は、会社設立に関する一般的な確認先を示すものです。具体的な定款、登記、税務、許認可については、司法書士、弁護士、税理士、行政窓口に確認してください。

事業内容によっては、会社設立の前または直後に許認可取得が必要な場合があります(飲食業・建設業・人材紹介業・金融業・医療・介護等)。許認可の要否を事前に調べずに事業を開始してしまうと、法令違反になる場合があります。自社の事業が許認可対象かどうかは、業種別の担当省庁・自治体窓口または弁護士・行政書士に確認することが重要です。

共同創業者間の合意

スタートアップの会社設立では、登記手続と同じくらい共同創業者間の合意が重要になります。設立直後は信頼関係があるため細かい話を後回しにしがちですが、資金調達、退任、事業転換、報酬変更、株式譲渡の場面で認識の違いが表面化することがあります。

会社法上の定款や登記事項だけでは、共同創業者間の期待値をすべて表現できるとは限りません。株主間契約、創業者間契約、知的財産の譲渡契約、秘密保持契約などを組み合わせて整理することがあります。

設立前に話し合いたい項目は次のとおりです。

  1. 各創業者の役割、勤務時間、意思決定権限
  2. 株式比率、出資額、将来の希薄化
  3. 退任、離脱、死亡、病気の場合の株式の扱い
  4. 事業アイデア、コード、デザイン、商標、ドメインの帰属
  5. 役員報酬、業務委託報酬、経費精算
  6. 競業、副業、秘密保持
  7. 投資家を入れる場合の同意事項
  8. 紛争が起きたときの協議方法

これらは一つの正解がある項目ではありません。事業の性質、創業者の関与度、資金調達方針、税務、将来の採用計画によって設計が変わります。

登記後に必要になる手続

会社は設立登記で成立しますが、登記が終わればすべて完了するわけではありません。税務署、都道府県税事務所、市区町村、年金事務所、労働基準監督署、公共職業安定所などへの手続が必要になる場合があります。

役員報酬を支払う、従業員を採用する、給与を支払う、社会保険に加入する、労働保険の対象になる、許認可事業を始めるといった事情により、確認先が変わります。法人設立ワンストップサービスを使う場合でも、自社に必要な手続を把握しておくことが大切です。

登記後に整理したい項目は次のとおりです。

  1. 税務関係の届出
  2. 社会保険、労働保険、雇用保険
  3. 銀行口座、会計、請求書、インボイス関係
  4. 許認可、届出、業界団体への確認
  5. 契約書ひな形、利用規約、プライバシーポリシー
  6. 株主名簿、取締役会議事録、株主総会議事録
  7. 電子証明書、法人番号、印鑑証明

スタートアップでは、プロダクト開発や営業に集中するため、設立後のバックオフィス整備が遅れることがあります。初期から最低限の記録を残しておくと、資金調達や監査、補助金申請、許認可確認のときに説明しやすくなります。

資本政策との関係

会社設立時の資本金や株式比率は、将来の資金調達に影響します。創業者の持株比率、発行可能株式総数、種類株式の利用、新株予約権、ストックオプション、投資契約の余地などを、早い段階で専門家と確認することがあります。

設立時にすべてを複雑にする必要はありませんが、後から変更しにくい項目もあります。たとえば、共同創業者の株式比率、知的財産の帰属、株式譲渡制限、役員構成、資金調達前の株主整理などは、投資家との交渉でも確認されやすい項目です。

資本政策を検討するときは、会社法だけでなく、税務、会計、金融商品取引法、投資契約、ストックオプション税制、労務、知的財産の観点も関係します。この記事だけで個別設計の適否を判断することはできません。

初期の資本政策表には、現在の株主、株式数、持株比率、将来の資金調達ラウンド、ストックオプションプール、希薄化後の比率を記載します。数値が変わるたびに版管理をしておくと、意思決定の履歴を追いやすくなります。

専門家に渡す資料

会社設立を司法書士、弁護士、税理士、社会保険労務士に相談するときは、事業概要と設立条件をまとめておくと確認が進みます。会社形態、定款、登記、税務、労務、許認可は別々の専門領域ですが、実際には相互に影響します。

相談前に用意したい資料は次のとおりです。

  1. 事業概要、サービス内容、提供開始時期
  2. 共同創業者、出資者、役員候補者
  3. 商号、本店所在地、事業目的案
  4. 資本金、出資額、株式比率
  5. 資金調達予定、ストックオプション予定
  6. 従業員採用予定、役員報酬の予定
  7. 許認可が関係しそうな事業内容
  8. 既に作成した契約書、規約、知財資料

資料がそろっていると、設立登記だけでなく、設立後に必要な届出や契約整備まで一緒に見通しやすくなります。

よくある読み違い

会社設立でよくある読み違いは、会社を作ればすぐに事業上の法令確認が終わると考えることです。登記は法人格を取得するための重要な手続ですが、事業に必要な許認可、個人情報対応、労務、表示規制、資金決済などは別に確認する必要があります。

次に、資本金は少なければよい、または多ければよいと単純に考えることも注意が必要です。資本金は信用、税務、許認可、資金繰り、出資比率などに関係します。具体的な金額は、事業計画や専門家の確認を踏まえて検討します。

また、定款の目的は広く書いておけば十分と考えることがあります。しかし、許認可、銀行口座、取引先審査、将来の事業展開との関係で、分かりやすさや具体性が問題になる場合があります。

最後に、共同創業者間の合意を口頭だけで済ませることもリスクになります。信頼関係がある段階でこそ、役割、株式、知財、退任時の扱いを文書化しやすくなります。

設立後すぐに作る管理資料

会社を設立した直後は、事業開発、採用、営業、資金調達が同時に進みます。そのため、会社の基本情報や意思決定の記録を後から探すことになりがちです。初期から管理資料を作っておくと、契約締結、銀行口座開設、補助金申請、投資家対応のたびに同じ情報を集め直さずに済みます。

作っておきたい資料は次のとおりです。

  1. 定款、登記事項証明書、印鑑証明書の保管場所
  2. 株主名簿、資本政策表、出資履歴
  3. 取締役、代表者、役員報酬、議事録
  4. 法人番号、税務届出、社会保険関係の資料
  5. 主要契約、利用規約、プライバシーポリシー
  6. ドメイン、商標、ソースコード、デザインの権利資料
  7. 銀行口座、会計ソフト、請求書発行の運用

これらは会社法だけの問題ではありませんが、会社設立と同じタイミングで整えておくと、後の法務確認がしやすくなります。資金調達を予定している会社では、投資家や専門家から会社の基本資料を求められることがあります。

設立時の資料は、誰が作成したか、いつの版か、どの決議に基づくかを残しておくと説明しやすくなります。小さな会社でも、文書管理の入口を決めておくことが重要です。

事業変更時の確認

設立時に決めた会社情報は、事業の成長に合わせて見直しが必要になることがあります。新しい事業を始める、許認可が必要な領域に進む、本店を移転する、役員を変更する、増資する、ストックオプションを発行する場合には、登記や定款、社内決議の確認が必要になることがあります。

スタートアップでは、最初のプロダクトから大きく方向転換することがあります。定款の目的、契約書、利用規約、許認可、保険、会計処理が新しい事業内容に合っているかを確認します。会社設立時のまま運用していると、銀行、取引先、投資家、行政手続で説明が難しくなる場合があります。

変更登記や定款変更は、手続の要否や期限が問題になることがあります。具体的な変更を予定している場合は、司法書士、弁護士、税理士などに早めに相談し、必要な決議や書類を確認します。

参考リンク

この記事では、以下の公式・公的情報を参照しました。

会社設立に関する手続・書類・費用の詳細は法務省・法務局・税務署・年金事務所の各ウェブサイトで確認できます。定款作成・登記申請は司法書士、税務届出・会計設計は税理士、労務・社会保険は社会保険労務士、法務全般は弁護士がそれぞれ専門家として対応できます。設立の時期や規模に応じて、必要な専門家を組み合わせて相談することが、スタートアップの設立準備を効率的に進めるうえで有効です。