労働基準法(法令ID:322AC0000000049)は、労働契約、賃金、労働時間、休暇等の最低基準を定める法律です。法令全集とe-Gov法令検索で条文を確認できます。労働者が雇用条件を確認する場面や、人事担当者が勤務制度を整理する場面の基礎になります。この記事は主要制度の関係を説明し、個別の未払賃金計算や労働紛争の判断、改正案の予測は扱いません。2026年9月15日時点について、2026年7月17日施行版を確認しています。
最低基準と労働条件の明示
第1条は、この法律の基準が最低のものであると位置付けています。法律と同じ水準に下げればよいという意味ではなく、その基準を理由とする労働条件の低下を否定し、向上に努めることを定めています。
第13条は、法律の基準に達しない労働条件を定めた契約について、その部分を無効とし、法律の基準によるものとしています。契約書に書かれている内容だけで労働条件の適否が決まるわけではないことを示す規定です。一方、第15条は契約締結時に賃金、労働時間その他の労働条件を明示することを使用者に求め、明示方法の細部を厚生労働省令へ委ねています。
この二つは役割が異なります。第13条は最低基準と契約内容の関係、第15条は条件を相手に示す手続の規定です。条件を明示したことと、明示した条件が基準を満たすことは別の確認事項になります。明示された条件が事実と異なる場合の契約解除や、一定の場合の帰郷旅費も第15条に定められており、採用時の説明だけにとどまらない条文です。
賃金は金額だけでなく支払い方も規律される
第24条は賃金の支払方法を定めています。通貨で、労働者本人に直接、全額を支払い、毎月1回以上、一定の期日を定めることが基本です。
ただし、条文にはそれぞれ例外が置かれています。通貨以外による支払には法令・労働協約や省令の定める方法との関係があり、一部控除には法令または所定の労使協定等の規定があります。毎月の一定期日という規定にも、臨時の賃金や賞与等に関する例外があります。「全額払いだから一切控除できない」「賃金はすべて毎月払う」といった説明では、この構造を取り落とします。
第37条は時間外・休日・深夜労働の割増賃金を定めています。第24条が支払い方の基本を扱うのに対し、第37条は特定の時間帯等に働いた場合の加算を扱います。第37条は政令に委ねる割増率や、月60時間を超える時間外労働の規定、割増賃金の基礎に算入しない賃金も設けています。支給額を調べる際には、基本給だけでなく、どの規定による加算・控除かを分けて整理する必要があります。
労働時間・休憩・休日と36協定
第32条の原則は、休憩を除いて1週40時間、1日8時間です。休憩は第34条、休日は第35条に置かれ、働かない時間でも制度上の意味は区別されています。
第34条は、労働時間が6時間を超える場合に少なくとも45分、8時間を超える場合に少なくとも1時間の休憩を途中に与えることを定めています。第35条は毎週少なくとも1回の休日を原則とし、4週間を通じ4日以上の休日を与える場合の規定も置きます。これらの原則のほか、変形労働時間制等や適用に関する特則があるため、すべての勤務制度を第32条だけで説明することはできません。
第36条は、所定の労使協定と届出により時間外・休日労働を行わせる制度です。協定に書けば上限なく働かせられるわけではなく、対象者、対象期間、延長できる場合や時間等を定め、限度時間や特別条項の要件も守る構成です。さらに第37条の割増賃金は別の規定です。36協定の届出と割増賃金の支払を、片方で他方を代替できる手続として扱わないことが重要です。
労働時間制度などの見直しをめぐる議論は、労働基準法改正の背景と主要な検討項目で扱っています。本記事の現行制度の説明とは区別して参照できます。
有給休暇と就業規則による職場の運用
第39条の年次有給休暇は、休日とは別に定められています。第1項は、雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日の有給休暇を与えることを規定します。
同条は勤続年数による加算や、所定労働日数等が少ない労働者の日数を省令で定める仕組み、労使協定による時間単位の取得も置いています。また、労働者の請求する時季に与える原則と、事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季へ変更できる規定を区別しています。日数の発生と、実際の取得時季の調整は別の論点です。
職場全体のルールについて、第89条は常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成・届出を求め、始終業時刻、休憩、休日、休暇、賃金、退職などを記載事項としています。第90条は作成・変更時の労働者側の意見聴取を定めます。法律の最低基準、個別契約で明示する条件、事業場の就業規則を重ねて読むことで、日々の勤務制度がどこに定められているかを把握できます。
年5日の時季指定は付与日数とは別に確認する
第39条第7項は、同条第1項から第3項によって与える年休が10労働日以上となる労働者について、そのうち5日を基準日から1年以内に時季を定めて与えることを使用者に求めます。年休の残日数だけでなく、実際に与えた日数を確認する制度です。
ただし、第8項により、労働者の請求する時季や労使協定による計画的付与によって既に与えた日数は、5日を限度に時季指定から差し引きます。本人が1日または半日単位で合計5日取得していれば、さらに別の5日を使用者が指定するという制度ではありません。また、対象は付与日数が10日以上の者であり、所定労働日数が少ない人も、その付与日数との関係で対象を確認します。
時間単位年休の取得分は、この年5日の義務から控除する日数に含まれません。取得時間を日数に換算して差し引くこともできないため、1日・半日単位の取得と時間単位の取得を分けて把握します。一方、前年度から繰り越した年休を1日・半日単位で取得した分は、その年度の5日に含まれます。使用者による時季指定に先立つ意見聴取と、その意見を尊重する努力義務は施行規則の定めです。厚生労働省の年5日取得に関するQ&Aで、これらの取扱いを確認できます。
このため、年休の運用では、付与する日数と基準日、本人が取得した日、計画的付与の日、使用者の時季指定が必要な残りの日数を区別して整理します。労働者の請求時季を変更する第5項の制度と、使用者が取得時季を定めて与える第7項も別の仕組みです。年休の「時季」という共通の言葉だけで両者を同じものとしないことが大切です。
解雇の予告・制限と退職時の証明
第19条は業務上の傷病で療養のため休業する期間や産前産後休業の期間と、その後の一定期間について解雇制限を定め、例外も置いています。第20条の解雇予告とは対象となる問題が異なります。
第20条は原則として30日前の予告を求め、予告しない場合の平均賃金の支払や、支払による日数短縮を規定します。第21条には適用しない労働者と、継続して使用した場合の扱いがあります。これらは予告等のルールであり、予告手当を払えば個別の解雇がすべて有効になるという趣旨の条文ではありません。解雇の効力に関わる他の法律の規定とは分けて読む必要があります。
第22条は退職時等の証明を定め、使用期間、業務、地位、賃金、退職事由等のうち請求された事項について証明書を交付する仕組みです。請求していない事項を記入してはならないことも規定されています。雇用の終了時には、終了までの期間や支払だけでなく、その理由・経歴を本人が確認できる書類の交付も法律上の論点になります。
年少者・妊産婦の保護と監督機関への申告
第56条以降は年少者、第64条の3以降は妊産婦等の保護を定めています。通常の労働時間の原則に加えて、年齢や妊娠・出産に対応する就業制限が別に置かれています。
第56条は最低年齢と例外的な使用の条件、第61条は年少者の深夜業を規定します。第65条の産前休業は本人の請求と出産予定時期、産後休業は出産後の期間を軸とし、産後の一定時期からは本人の請求と医師の判断による例外があります。第66条は妊産婦から請求がある場合の時間外・休日・深夜業等を制限し、第67条には育児時間があります。対象者と請求の有無を区別することが各規定の理解に必要です。
法の実施については監督機関の章があり、第104条は違反する事実を労働者が行政官庁や労働基準監督官に申告できることと、その申告を理由にした解雇その他の不利益取扱いの禁止を定めます。契約内容を整えるだけでなく、基準を実際に守らせるための仕組みまで含めて、労働基準法が構成されています。
参考リンク
主要な根拠は第1条、第13条、第15条、第19条から第24条、第32条から第39条、第56条、第61条、第64条の3から第68条、第89条・第90条、第104条です。