環境基本法(平成5年法律第91号、法令ID:405AC0000000091)は、環境を保全する基本理念と国・自治体・事業者・国民の責務を定め、環境基本計画や環境基準につなげる法律です。政策を調べる人や自治体の計画担当者、企業の環境担当者が、個別の規制の背景を確認するときに参照できます。この記事では政策を組み立てる制度を扱い、施設ごとの排出基準や許可要件の判定は扱いません。法令全文とe-Govの条文を参照し、2026年9月15日時点の施行内容を説明します。
世代を超えた環境の保全と持続的な発展
第3条から第5条は、環境政策の出発点を三つの基本理念として示しています。現在の生活環境だけでなく、将来の世代への継承、経済社会のあり方、国際的な協力までを視野に入れた構成です。
第3条は、健全で恵み豊かな環境を維持し、その恵みを現在と将来の世代が受けられるようにすることを定めます。生態系の均衡や環境の有限性を前提とし、人間の活動によってその基盤が損なわれるおそれに着目しています。環境の保全を、今ある被害への対処だけに限定していない点が特徴です。
第4条は、環境への負荷を少なくしながら持続的に発展できる社会を目指すことを定めています。すべての者の公平な役割分担と自主的な行動に加え、科学的知見を充実させて支障を未然に防ぐ方向が示されています。第5条では、日本の能力や国際社会での地位に応じ、国際協調の下で地球環境保全を積極的に進めることを掲げます。三つの条文は、継承する対象、社会の仕組み、国際的な進め方という異なる側面を担っています。根拠:第3~5条
国・自治体・事業者・国民の役割を分ける
第6条から第9条は、基本理念を実行する主体ごとの責務を置いています。全員に同じ行動を求めるのではなく、政策の策定、地域への対応、事業活動、日常生活という立場の違いに応じています。
国は基本的かつ総合的な施策を策定・実施し、地方公共団体は国に準じた施策と地域の自然的・社会的条件に応じた施策を担います。第36条は自治体の施策をさらに具体化し、都道府県については広域的な施策と市町村施策の総合調整を主な役割として示しています。地域ごとの課題を扱う根拠が、国の計画とは別に設けられています。
事業者の責務を定める第8条は、ばい煙や汚水などへの対策に加え、製品が廃棄物になった後の適正処理、使用・廃棄による負荷の低減、再生資源などの利用にも及びます。工場の敷地内だけでなく、製品の利用後までを見据えた規定です。国民については、第9条が日常生活の負荷低減と保全施策への協力を定めます。ただし、これらの基本的な責務と、個別法による届出・許可・排出規制は別の規定として確認する必要があります。根拠:第6~9条・第36条
環境基本計画と環境基準は何が違うか
第15条の環境基本計画は政策の大綱を定める計画であり、第16条の環境基準は環境の状態について望ましい水準を示す基準です。計画と基準は、対象も決定の仕組みも異なります。
環境基本計画には、総合的・長期的な施策の大綱と、計画的な推進に必要な事項を定めます。環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて案を作り、閣議決定を求め、決定後は公表する仕組みです。変更にも同じ手続が準用されます。法律自体に各年度の施策をすべて書き込むのではなく、計画を通じて具体化する構造です。環境省は環境基本計画のページで計画本文や点検資料を公開しています。
これに対し環境基準は、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について、人の健康や生活環境の保全上、維持されることが望ましい条件を定めるものです。常に科学的判断を加え、必要な改定を行うことも規定されています。事業者が守る排出の基準を定める規制措置は第21条に別に位置づけられています。このため、「環境基準」という名称だけで、工場ごとの排出限度と同じものと扱うことはできません。根拠:第15条・第16条・第21条
規制・経済的措置・環境影響評価を組み合わせる
環境基本法が用意する政策手段は、行為の禁止や数値規制だけではありません。第19条以降には、施策策定時の配慮、事業前の評価、経済的措置、公共施設整備、教育や情報提供が並びます。
第20条は、土地の形状変更や工作物の新設などを行う事業者が、事業に先立って環境への影響を調査・予測・評価し、その結果を踏まえて配慮することを推進するため、国が必要な措置を講じると定めています。個々の環境影響評価の対象事業や手続をここで完結させるのではなく、その推進を基本施策に置く条文です。
第21条は汚染物質の排出や自然環境を損なう行為などへの規制、第22条は負荷低減を促す助成や経済的負担に関する調査研究等を規定します。さらに、第25~27条は教育・学習、自発的活動、情報提供を扱い、第28~30条は調査、監視体制、科学技術を扱います。規制を実施するだけでなく、状態を把握し、技術や知識を広げ、負荷を減らす行動につなげる仕組みがまとまっています。特定地域の公害には、第17条の公害防止計画という地域単位の制度もあります。根拠:第17条・第19~30条
原因者負担と審議・報告の仕組み
環境施策を継続して進めるには、費用を誰が負担し、どのように政策を検討するかという仕組みも必要です。環境基本法は、費用負担と審議機関、国会への報告をそれぞれ設けています。
第37条の原因者負担は、公的主体が行う環境保全事業について、その必要を生じさせた者に、原因となった程度などを踏まえて費用を適正・公平に負担させるための措置を定めます。第38条の受益者負担は、自然環境保全事業により著しく利益を受ける者に、受益の限度で負担を求めるための措置です。原因を作ったことと、事業の利益を受けたことは別の理由として整理されています。
政策の検討については、第41条が中央環境審議会を設け、環境基本計画や重要事項の調査審議等を担当させています。第43条は都道府県の審議会等、第44条は市町村が設置できる審議会等を定めます。また、第12条は政府に毎年の環境の状況・施策の報告と、これから講じようとする施策の文書提出を求めています。理念を示すだけでなく、計画、実施、状況の把握、報告と審議を支える制度まで置いていることが、この法律全体の特徴です。根拠:第12条・第37~44条
国境を越える環境保全と自治体・民間の協力
環境基本法は、国内の公害対策だけでなく、海外の環境と国際的な協力にも独立した規定を置いています。第32条は地球環境保全に関する国際的連携に加え、開発途上地域の環境保全などへの支援を進めるための措置を定めます。
同条は、協力を担う専門人材の育成、海外の環境状況に関する情報の収集・整理・分析も対象とします。第33条には監視・観測・測定の国際的連携と調査研究の協力が続きます。資金や設備による支援だけでなく、状態を継続的に把握し、知見を共有する基盤も環境協力に含めています。
第34条は、自治体や民間団体等による国際協力の活動を、国が情報提供等により促進することを定めます。第35条では、国自身の国際協力の実施に際する環境への配慮と、海外で活動する事業者が適切に配慮できるようにする情報提供等を扱います。国内の各主体の責務から国際的な活動までをつなぎ、海外での活動にも環境政策の視点を及ぼしている部分です。根拠:第32~35条
参考リンク
条文と計画の具体的な内容は、次の一次資料で確認できます。