労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(法令ID:341AC0000000132)は、法令全集の条文ページとe-Gov法令検索で確認できます。令和7年法律第63号による改正では、カスタマーハラスメント対策を事業主の雇用管理上の措置として位置付け、厚生労働省の公表資料では2026年10月1日から義務化されると案内されています。顧客対応部門、人事・労務、店舗運営、コールセンター、医療・福祉・公共サービスなど、外部の利用者や取引先と接する職場で参照されるテーマです。この記事では、カスタマーハラスメントの定義、事業主が講ずべき措置、相談体制、悪質事案への対処方針、指針との関係を扱い、個別の発言や要求が該当するかの判断は扱いません。
基本情報
カスタマーハラスメント対策義務化は、労働施策総合推進法等の一部改正のうち、職場におけるハラスメント対策を強化する部分に位置付けられます。厚生労働省の改正案内ページでは、いわゆるカスタマーハラスメント、求職者等へのセクシュアルハラスメント等のない職場づくりを図るために、労働施策総合推進法等を改正したと説明されています。関係法令として、施行期日を定める令和8年政令第17号、省令整備、厚生労働省告示による指針が公表されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 関連する本法 | 労働施策総合推進法 |
| 法令番号 | 昭和四十一年法律第百三十二号 |
| 法令ID | 341AC0000000132 |
| 改正法 | 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律、令和七年法律第六十三号 |
| 主な施行日 | 2026年10月1日 |
| 主な確認先 | 厚生労働省、e-Gov法令検索、厚生労働省告示による指針 |
この改正の特徴は、顧客等の言動に起因する問題を、単なる接客マナーや苦情処理ではなく、労働者の就業環境を害する問題として扱う点にあります。事業主に求められるのは、顧客を一律に排除することではなく、労働者を保護する方針、相談窓口、事後対応、悪質事案への対処方針を、雇用管理上の措置として整えることです。したがって、現場任せの対応だけでなく、会社の方針、管理職への指示、相談記録、再発防止策を一体で確認する必要があります。
カスタマーハラスメントの3要素
厚生労働省のリーフレットは、職場におけるカスタマーハラスメントについて、三つの要素をすべて満たすものとして整理しています。第一に、顧客等の言動であること。第二に、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えること。第三に、労働者の就業環境が害されることです。電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれると説明されています。
この三要素は、単に「顧客から強い口調で言われた」という事実だけで判断するためのものではありません。顧客等の範囲、言動の内容や手段、業務の性質、対応の場面、労働者の就業環境への影響を組み合わせて見る構造です。たとえば、商品やサービスへの苦情であっても、要求の内容や言動の態様が社会通念上許容される範囲を超えるかどうかは別に確認されます。逆に、顧客からの正当な意見や問い合わせまで、すべてをハラスメントと扱う趣旨ではありません。
この整理は、事業主が社内方針や研修資料を作るときの出発点にもなります。現場では、苦情、クレーム、問い合わせ、取引先からの要望、施設利用者からの申し出が混在しやすいため、まず三要素で言葉をそろえることが重要です。特に、就業環境が害されるという要素は、顧客対応の成否ではなく、労働者が安全かつ継続的に働ける環境の問題として把握するための軸になります。
顧客等の範囲と許容範囲を超える言動
厚生労働省のリーフレットでは、顧客等について、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業に関係を有する者を指すと説明しています。施設の利用者には、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設などが例示されています。また、今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者も含まれるとされています。つまり、既存顧客だけでなく、来店前、利用前、取引開始前の接触も視野に入る構造です。
社会通念上許容される範囲を超える言動については、内容面と手段・態様面の両方から例が示されています。内容面では、要求に理由がないもの、商品・サービス等と全く関係のない要求、契約等により想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求などが挙げられています。手段・態様面では、身体的攻撃、精神的攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動などが示されています。
ただし、これらは社内で一律の結論を出すためのチェックリストというより、判断枠組みを作るための材料です。業種ごとに顧客対応の内容は異なり、医療、介護、交通、小売、金融、公共窓口、BtoB取引では、想定される要求や対応可能性も変わります。事業主が方針を作る際には、自社の業務の性質、現場で生じる接触経路、対面・電話・メール・SNSなどのチャネルを洗い出し、どのような場面で管理職や本部に接続するかまで定めることが実務上の焦点になります。
方針の明確化と周知
カスタマーハラスメント防止のために講ずべき措置として、まず事業主の方針等の明確化と周知・啓発が挙げられています。厚生労働省のリーフレットでは、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが示されています。あわせて、カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知することも求められています。
ここでいう方針は、単なるスローガンではなく、現場で判断に迷ったときに参照できる基準である必要があります。たとえば、管理監督者にその場の対応方針について指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、本社・本部へ情報共有し指示を仰ぐことなどが、対処内容の例として示されています。現場担当者が一人で抱え込まない体制を、方針の中に組み込むことが大切です。
方針の周知は、就業規則や社内規程に書くだけで完結するものではありません。店舗、営業所、コールセンター、訪問サービス、オンライン対応など、顧客等との接点が分かれている場合、管理職、正社員、パート・アルバイト、派遣労働者などに情報が届く形を考える必要があります。方針を明確化する段階で、どの部署が相談を受け、誰が現場に指示を出し、どの記録を残すかを定めておくと、相談体制や事後対応の設計につながります。
相談体制と事後対応
相談体制の整備では、相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること、相談窓口担当者が適切に対応できるようにすることが示されています。カスタマーハラスメントは、顧客対応の現場で発生するため、相談の入口が人事部門だけに限られると、発生直後の対応が遅れることがあります。店舗責任者、現場管理者、コールセンターのスーパーバイザー、人事・労務部門、法務・コンプライアンス部門の役割を分けておくことが、相談体制の実効性に関わります。
事後の迅速かつ適切な対応としては、事実関係を迅速かつ正確に確認すること、被害者に対する配慮のための措置を行うこと、再発防止に向けた措置を講ずることが示されています。事実確認では、対応日時、場所、相手方、発言や行動、録音やメールなどの資料、同席者、対応した労働者の状態を整理する場面が考えられます。被害者への配慮としては、担当交代、休憩、上長同席、相談支援、勤務場所やシフトの調整など、職場の実情に応じた対応が検討対象になります。
また、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること、相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも示されています。カスタマーハラスメントの相談は、顧客対応の評価や営業成績と結び付けて受け止められることがあるため、相談した労働者が不利益を受けない仕組みを明確にすることが重要です。制度としては、相談を受けるだけでなく、相談後の取扱いまで設計する必要があります。
悪質事案への対処方針
厚生労働省のリーフレットでは、対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備することが示されています。ここは、既存のハラスメント措置と比べても、顧客等という社外の相手を前提にする点で特徴的です。
悪質事案への対処方針は、現場担当者が「どこまで対応し続けるべきか」を判断するための基準になります。たとえば、暴力や脅迫、長時間の拘束、土下座の強要、執拗な電話、SNS上での攻撃、業務と関係のない要求などが発生した場合、現場責任者への引継ぎ、対応打切り、複数名対応、警察への通報、本部・法務部門への共有など、段階的な手順を用意しておくことが考えられます。記事では個別事案の適否を判断しませんが、方針の有無は労働者保護の実効性に直結します。
一方で、公式資料は、対策を講ずる際には消費者の権利や障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供義務にも触れています。つまり、顧客等への対応方針は、労働者保護と利用者対応の双方を踏まえて設計する必要があります。過度な要求や攻撃的な言動から労働者を守ることと、正当な苦情や必要な配慮を受け止めることを切り分けるためにも、事前に業務別の対応基準を整えておくことが重要です。
求職者セクハラ対策との関係
令和7年の労働施策総合推進法等改正では、カスタマーハラスメント対策とあわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も義務化されています。厚生労働省のリーフレットでは、2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されると案内されています。両者は同じ時期に準備されることが多いものの、対象となる相手方、発生場面、講ずべき措置の内容は異なります。
カスタマーハラスメントは、顧客等の言動によって労働者の就業環境が害される場面を扱います。これに対し、求職者等に対するセクシュアルハラスメントは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等による求職活動等が阻害されるものとして説明されています。求職者には企業の求人に応募する者が含まれ、求職者以外にも、採用に資する活動に参加する者、教育実習や看護実習その他の実習を受ける者が含まれるとされています。
企業の準備では、両者を同じ「ハラスメント対策」としてまとめるだけでは足りません。カスタマーハラスメントでは、顧客等から労働者を守る方針、相談体制、悪質事案への対処方針が中心になります。一方、求職者等へのセクシュアルハラスメントでは、採用面接、会社説明会、インターンシップ、実習、オンライン上のやり取りなど、採用・受入れの場面で労働者側の行動を管理することが中心になります。社内規程や研修を作る場合も、対象場面を分けて整理する必要があります。
指針・報告・公表の読み方
労働施策総合推進法では、厚生労働大臣が事業主の講ずべき措置等について、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定める仕組みが置かれています。令和7年改正に伴い、厚生労働省は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表しています。したがって、条文だけでなく、指針の項目を確認して、社内体制や規程に落とし込むことが必要になります。
既存の労働施策総合推進法には、厚生労働大臣による助言、指導または勧告、勧告に従わなかった場合の公表、報告徴収の規定が置かれています。e-Govで確認できる条文上も、第三十条の二の規定に違反している事業主に対し勧告をした場合に、勧告を受けた者が従わなかったときは、その旨を公表できる構造が示されています。改正後のカスタマーハラスメント対策でも、指針と行政上の対応をセットで読むことが重要です。
実務上は、指針に列挙された措置を文書化するだけでなく、相談を受けた後の事実確認、被害者への配慮、再発防止、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止を、現場で機能する手順にする必要があります。特に複数店舗や複数拠点を持つ事業者では、全社方針と現場判断の間にずれが生じやすいため、研修、管理職向け手順、記録様式、顧客対応ルールを連動させることが、2026年10月1日の施行に向けた確認事項になります。
参考リンク
カスタマーハラスメント対策義務化は、法律、施行期日政令、省令、告示、指針、リーフレットが組み合わさって制度化されています。まずは厚生労働省の改正特設ページで全体像と資料の更新状況を確認し、次にe-Gov法令検索で労働施策総合推進法の条文を確認する流れが読みやすいです。指針は、事業主が講ずべき措置の具体化に関わるため、社内規程や研修資料を作る前に参照する資料として位置付けられます。