事業性融資の推進等に関する法律(法令ID:506AC0000000052)は、法令全集の条文ページとe-Gov法令検索で確認できます。同法は、事業の将来性に基づく融資を進めるため、基本理念、企業価値担保権、企業価値担保権信託会社、事業性融資推進本部、認定支援機関などを定める法律です。スタートアップ、中小企業、金融機関、事業承継・再生支援に関わる専門家が、資金調達や担保設計の選択肢を検討するときに参照する場面があります。この記事では制度の入口を整理し、個別融資で企業価値担保権を設定すべきか、どの契約条件が妥当かの判断は扱いません。
事業性融資を制度として後押しする法律
事業性融資推進法は、金融庁資料によれば、2026年5月25日に施行され、事業の将来性に基づく融資を進めるにあたっての選択肢として企業価値担保権を導入する法律です。従来の融資実務では、不動産担保や経営者保証が重視されやすく、有形資産に乏しいスタートアップや、事業承継・新規投資を進めたい企業にとって、資金調達の制約になることがありました。この法律は、事業そのものの価値や将来性に着目した融資慣行を育てるための制度基盤を整えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 事業性融資の推進等に関する法律 |
| 法律番号 | 令和6年法律第52号 |
| 法令ID | 506AC0000000052 |
| 施行日 | 2026年5月25日 |
| 主な制度 | 企業価値担保権、企業価値担保権信託会社、事業性融資推進本部、認定支援機関 |
この法律を読むときは、「新しい担保権ができた」という一点だけでなく、事業者と金融機関が事業の実態、将来性、改善余地、資金使途を継続的に話し合う枠組みを作る法律として見ることが大切です。金融庁は、事業者と金融機関の信頼関係・コミュニケーションのあり方や企業価値担保権の活用について、基本的な考え方の案を公表しています。担保権の設定は制度の一部であり、その前提には事業理解と対話があります。
企業価値担保権が対象にするもの
企業価値担保権は、個別の不動産や動産だけを担保に取る発想とは異なり、事業の継続・発展を前提に企業価値に着目する担保制度として位置づけられています。金融庁の制度検討資料では、企業価値担保権は、以前「事業成長担保権」と呼ばれていた制度として検討されてきました。事業者が持つ有形・無形の資産、契約関係、顧客基盤、知的財産、人材、将来収益の見込みなどが、事業として一体となって価値を生むという考え方が背景にあります。
もっとも、企業価値担保権は、企業の将来性を金融機関が自由に評価してよいというだけの制度ではありません。法律、施行令、内閣府令、ガイドラインにより、担保権の設定、登記、信託、被担保債権、実行、関係者保護などのルールが整理されます。企業の総財産に関係する担保制度であるため、他の債権者、取引先、労働者、株主、経営者保証、既存担保権との関係も確認する必要があります。
スタートアップや成長企業では、設備や不動産よりも、ソフトウェア、データ、顧客契約、ブランド、チーム、技術力が価値の中心になることがあります。企業価値担保権は、こうした事業価値を融資の判断材料にしやすくする制度として期待されます。ただし、評価方法、モニタリング、財務情報の共有、資金使途、事業計画の変更、追加借入れの扱いなど、契約実務で詰めるべき事項は多く、制度の利用には金融機関との継続的な対話が前提になります。
信託会社と登記の役割
事業性融資推進法では、企業価値担保権をめぐって信託の仕組みが重要な役割を担います。金融庁が公表した関係政令・内閣府令案では、企業価値担保権信託会社が営むことができる兼業業務、企業価値担保権に関する登記の申請情報・添付情報、信託業務に関する内閣府令などが整備対象として示されています。これは、担保権者が個々の金融機関だけでなく、信託の枠組みを通じて管理されることを前提にした制度設計です。
信託会社の役割は、企業価値担保権の設定・管理・実行に関する利害を整理し、複数の債権者が関係する場合にも担保権の管理を安定させる点にあります。融資実務では、単独の銀行だけでなく、複数金融機関、ファンド、保証機関、支援機関が関与することがあります。企業価値担保権が事業全体に関わる制度である以上、担保権の管理主体、債権者間の順位、追加融資、返済、担保実行時の意思決定を整理する仕組みが必要になります。
登記も制度理解の中心です。企業価値担保権は、外部の取引先や他の債権者にも影響し得るため、誰がどの事業者についてどのような担保権を持っているかを公示する仕組みが求められます。登記情報は、金融機関の与信判断、取引先の信用管理、M&Aや事業承継のデューデリジェンス、倒産・再生手続で確認される可能性があります。企業側は、登記によりどの情報が外部から確認されるか、既存契約にどのような影響があるかを事前に確認する必要があります。
金融機関との対話と情報共有
金融庁が公表した「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」案は、企業価値担保権の活用だけでなく、事業者と金融機関の信頼関係やコミュニケーションのあり方を重視しています。事業性融資では、過去の決算書や担保価値だけでなく、事業計画、顧客動向、競争環境、技術開発、資金使途、経営課題、改善計画を金融機関が理解することが必要になります。事業者側にも、説明資料の整備や定期的な情報提供が求められます。
企業価値担保権を設定する場合、金融機関は事業の状態を継続的に把握し、必要に応じて改善に向けた対話を行うことになります。これは、過度な干渉を許す制度というより、事業の継続・発展に向けて、早い段階で課題を共有し、資金繰りや事業再生の選択肢を検討しやすくするための関係づくりとして理解できます。もっとも、どの情報をどの頻度で提供するか、経営判断の自由との関係をどう整理するかは、契約と運用で慎重に確認する必要があります。
事業者側で準備しやすいのは、金融機関に説明する事業情報の整理です。売上・粗利・資金繰り、主要顧客、解約率、在庫、知的財産、主要契約、人員計画、設備投資、法規制リスク、競合環境を、定期的に更新できる形にしておくと、事業性融資の検討が進めやすくなります。スタートアップでは、投資家向け資料と金融機関向け資料で重視される観点が異なることもあるため、借入返済可能性と事業成長の関係を説明できる資料が重要になります。
推進本部と認定支援機関
事業性融資推進法は、個別の担保制度だけでなく、政策推進の体制も定めています。金融庁は、同法に基づき2026年5月25日に事業性融資推進本部が設置されると公表しています。事業の将来性に基づく融資という新しい融資慣行の形成に向け、政府一体で長期的に取り組む体制を整えるものです。金融庁の監督局には事業性融資推進室も置かれ、関係省庁との連携や制度運用の検討が進められます。
また、事業者や金融機関による企業価値担保権の利用を支援する仕組みとして、認定事業性融資推進支援機関制度も用意されています。企業価値担保権は新しい制度であり、事業評価、担保設定、契約交渉、モニタリング、再生支援に専門的な知識が必要になることがあります。支援機関は、事業者と金融機関の間で、事業理解や制度活用を支える役割を担うことが期待されます。
中小企業やスタートアップにとっては、制度名だけを見てすぐに利用できるかを判断するより、まず自社の資金調達課題が何かを整理することが大切です。不動産担保がない、経営者保証を避けたい、成長投資のために長期資金が必要、既存借入れの条件を見直したい、事業承継で保証を外したいなど、課題によって相談先や検討順序が変わります。金融機関、支援機関、専門家と話すときは、制度利用そのものを目的化せず、資金調達と事業改善の手段として位置づけると整理しやすくなります。
企業が確認したい契約・実務の入口
企業価値担保権を検討する企業は、まず既存の借入契約、担保契約、リース契約、知的財産のライセンス契約、主要取引契約、株主間契約を確認する必要があります。事業全体に関わる担保権であるため、既存の担保権や譲渡制限、チェンジ・オブ・コントロール条項、追加担保差入れ義務、財務制限条項との関係が問題になることがあります。金融機関に提示する事業計画と、既存契約上の制約が矛盾しないかも確認が必要です。
次に、社内で誰が金融機関との対話を担うかを決めます。経営者、CFO、経理、法務、事業責任者が分担し、財務情報だけでなく事業KPI、受注見込み、開発計画、規制対応、資金使途を説明できる体制を作ります。事業性融資では、数字だけではなく、事業のリスクと改善策を継続的に話せることが重要になります。説明資料は、投資家向けの成長ストーリーだけでなく、返済原資、資金繰り、損益分岐、担保設定後の情報提供まで含めて整える必要があります。
最後に、企業価値担保権を設定した場合の出口を確認します。予定どおり返済する場合、追加融資を受ける場合、事業計画が遅れる場合、事業譲渡やM&Aを行う場合、再生手続を検討する場合で、担保権の意味は変わります。新制度は資金調達の選択肢を広げる可能性がありますが、企業価値に広く関係する担保である以上、契約前の説明、登記、既存債権者との調整、情報開示、実行時の影響を慎重に確認する必要があります。
参考リンク
事業性融資推進法を確認するときは、法律本文と金融庁の制度ページを見たうえで、関係政令・内閣府令、ガイドライン、監督指針の改正案を確認する流れが分かりやすいです。企業価値担保権は制度運用が始まったばかりのため、金融庁の事業性融資推進本部の資料も継続して確認してください。