決済、ウォレット、ポイント、送金、暗号資産、投資、クラウドファンディングなどを扱うスタートアップでは、早い段階で業規制の確認が必要になります。特に資金決済法と金融商品取引法は、サービス設計と密接に関係します。

この記事では、決済・FinTechサービスで確認したい法令の入口を整理します。個別サービスの登録要否、許認可、金融商品該当性、犯罪収益移転防止法上の義務を判断するものではありません。

金融・決済分野の法令は、登録・認可を得なければそもそも事業を開始できないケースが多いのが特徴です。資金決済法(資金移動業の登録・前払式支払手段の届出・暗号資産交換業の登録等)、金融商品取引法(第一種・第二種金融商品取引業の登録・投資顧問業の登録等)、銀行法(銀行業免許)などは、未登録で業務を行った場合に刑事罰が問われる規定を含んでいます。サービスのグレーゾーン確認は、金融庁の公式資料・相談窓口(FinTechサポートデスク等)と弁護士を活用することが重要です。

資金決済法で見ること

資金決済法は、前払式支払手段、資金移動業、暗号資産交換業、電子決済手段等取引業などを扱う法律です。ユーザーから資金を預かる、送金する、ポイントを発行する、暗号資産を扱う場合に確認します。

前払式支払手段では、商品券、プリペイドカード、アプリ内ポイントなどが問題になることがあります。自家型か第三者型か、有効期限、払戻し、未使用残高、表示、届出・登録などを確認します。

資金移動業では、銀行以外の者が為替取引を業として営む場合の登録や規制が問題になります。収納代行、割り勘、送金、売上金の預かり、マーケットプレイスの精算などは、サービス設計ごとに整理が必要です。

暗号資産交換業(暗号資産の売買・交換・管理等を業として行う場合)は、資金決済法の登録が必要です。電子決済手段(いわゆるステーブルコイン等)に関しては令和4年改正資金決済法により電子決済手段等取引業の規制が新設されています。金融庁の公表する「資金決済法に関するQ&A」「事務ガイドライン」は、前払式支払手段や資金移動業の判断基準を確認する際の基本資料です。

金融商品取引法で見ること

金融商品取引法は、有価証券、デリバティブ、投資運用、投資助言、金融商品取引業、開示などを扱います。投資性のある商品や資金調達サービスを扱う場合に確認します。

株式投資型クラウドファンディング、ファンド、トークン化された権利、投資助言、投資運用、暗号資産関連の金融商品などは、金融商品取引法の確認対象になることがあります。

サービスの名称だけで判断せず、ユーザーが何にお金を出すのか、どのようなリターンを期待するのか、権利の内容は何か、誰が勧誘するのか、誰が資産を管理するのかを確認します。

第二種金融商品取引業は、集団投資スキーム(ファンド)の持分の販売・勧誘等を行う場合に関係します。適格機関投資家等特例業務(いわゆる「プロ向けファンド」の届出制)の要件や、その要件を満たさない場合の登録義務についても、金融庁の資料を確認することが必要です。サービスによっては暗号資産と有価証券の双方に関連する場合があり、法的分類に疑問がある場合は早期の専門家確認が推奨されます。

犯罪収益移転防止法と本人確認

決済・金融サービスでは、犯罪収益移転防止法に基づく本人確認や取引時確認が関係する場合があります。金融機関、資金移動業者、暗号資産交換業者など、特定事業者に当たるかを確認します。

本人確認、取引記録、疑わしい取引の届出、反社会的勢力対応、制裁対象者確認などは、サービス開始後の運用体制にも関係します。本人確認を外部サービスに委託する場合でも、自社の責任範囲を契約で整理します。

FinTech領域では、法令だけでなく、金融庁の監督指針、事務ガイドライン、業界自主規制、決済ネットワークの規約も確認対象になります。

犯罪収益移転防止法上の特定事業者(銀行・資金移動業者・暗号資産交換業者等)に該当する場合は、取引時確認(本人確認)・取引記録の保存・疑わしい取引の届出などが義務となります。eKYC(電子的本人確認)を利用する場合は、犯罪収益移転防止法施行規則が定める方法に適合しているかを確認する必要があります。国際送金・外国人ユーザー・外国企業との取引が含まれる場合は、外国為替及び外国貿易法(外為法)・制裁スクリーニングなども確認対象になることがあります。

企画段階で確認すること

決済・FinTechサービスは、プロダクト設計の後から法令確認をすると、大きな手戻りになることがあります。企画段階で、金銭や価値の流れを図にすることが重要です。

確認項目は次のとおりです。

  1. ユーザーから金銭や価値を受け取るか
  2. その価値をどこに保管するか
  3. 第三者への支払いや送金があるか
  4. 換金や払戻しがあるか
  5. 投資性や配当、利益分配があるか
  6. 暗号資産や電子決済手段を扱うか
  7. 本人確認や取引モニタリングが必要か

この記事は、決済・FinTech法令の入口を示すものです。具体的な登録要否や業規制は、金融庁、財務局、弁護士、行政書士、金融規制に詳しい専門家に確認してください。

金融庁は「FinTechサポートデスク」を設置しており、FinTech事業者からの法令適用に関する相談を受け付けています。グレーゾーン解消制度(経済産業省・金融庁等)を活用して、サービスの規制適用関係を事前に公的機関に照会することも可能です。

お金と価値の流れを図にする

決済・FinTechの確認では、最初にお金と価値の流れを図にします。ユーザー、加盟店、プラットフォーム、決済代行会社、銀行、カード会社、ウォレット、投資先、外部委託先がどの順番で関係するのかを整理します。

図にする対象は、現金や銀行振込だけではありません。ポイント、クーポン、アプリ内残高、売上金、暗号資産、電子決済手段、投資持分、配当、手数料、キャンセル時の返金、チャージバックも確認対象になります。

整理したい項目は次のとおりです。

  1. ユーザーが支払う相手
  2. 資金を一時的に保有する主体
  3. 価値を移転できる相手と範囲
  4. 換金、払戻し、返金の有無
  5. 手数料を受け取る主体
  6. 売上金の精算時期と精算方法
  7. 破綻やサービス終了時の残高の扱い
  8. 本人確認や不正利用対応の担当

同じ「ポイント」や「ウォレット」という名称でも、設計によって確認する法令が変わる場合があります。名称ではなく、ユーザーが何を購入し、どのように使い、どこへ移転できるのかを見ます。

ポイント、残高、払戻し

アプリ内ポイント、プリペイド残高、クーポン、ギフトコードを扱う場合は、前払式支払手段の確認が必要になることがあります。自社サービス内だけで使えるのか、第三者の商品やサービスにも使えるのか、有効期限があるのか、払戻しができるのかを整理します。

ユーザーにとっては、ポイント、残高、クーポン、チケット、コインの違いが分かりにくいことがあります。利用規約、購入画面、残高画面、失効通知、返金案内で、何が購入され、どの範囲で使え、いつ失効するのかを分かりやすく表示します。

未使用残高がある場合、サービス終了時や利用停止時の扱いも確認します。払戻しを認めるか、例外的に返金するか、規約でどう定めるか、法令上どのような手続が必要になるかは、個別設計によって変わります。

キャンペーンポイントや無償付与のポイントでも、表示や景品表示法、会計、税務、プラットフォーム規約が関係することがあります。資金決済法だけを見れば十分とは限りません。

本人確認と不正利用対策

決済・金融サービスでは、本人確認や不正利用対策がプロダクト設計に組み込まれます。犯罪収益移転防止法上の取引時確認が必要になるかどうかは、事業者の属性やサービス内容により変わります。

本人確認を導入する場合は、確認するタイミング、確認書類、eKYC事業者、保存期間、再確認、未成年者、法人顧客、代理人、海外ユーザーを整理します。本人確認を外部サービスに委託する場合でも、自社の契約、責任範囲、データ管理を確認します。

不正利用対策では、なりすまし、アカウント乗っ取り、チャージバック、マネーロンダリング、制裁対象者確認、反社会的勢力対応、異常取引検知、問い合わせ対応が関係します。初期段階では簡易な運用でも、利用者数や取扱金額が増えると体制の見直しが必要になります。

金融領域では、法令、監督指針、事務ガイドライン、業界団体ルール、決済ネットワーク規約、アプリストア規約が重なります。公式資料を確認し、必要に応じて金融規制に詳しい専門家に相談します。

専門家に渡す資料

決済・FinTechの相談では、文章だけではなく、資金の流れと画面の流れを示す資料が重要です。登録要否や業規制の確認は、誰が資金を受け取り、誰が保有し、誰に移転し、どの権利をユーザーに与えるのかによって変わります。

相談前に用意したい資料は次のとおりです。

  1. サービス概要、対象ユーザー、提供地域
  2. 資金や価値の流れを示す図
  3. 料金、手数料、売上金、精算の仕組み
  4. ポイント、残高、クーポン、暗号資産等の仕様
  5. 払戻し、返金、キャンセル、サービス終了時の扱い
  6. 本人確認、不正利用対策、取引モニタリング
  7. 利用規約、重要事項説明、画面文言
  8. 決済代行会社、銀行、外部委託先との契約

これらをそろえると、資金決済法、金融商品取引法、犯罪収益移転防止法、消費者向け表示、個人情報保護法を横断して確認しやすくなります。

よくある読み違い

決済・FinTechでよくある読み違いは、決済代行会社を使えば自社の確認は不要になると考えることです。決済代行会社が担う範囲と、自社が提供する機能、ユーザーへの表示、資金の流れは分けて確認する必要があります。

次に、ポイントという名称なら資金決済法とは関係しないと考えることも注意が必要です。名称ではなく、発行方法、利用範囲、対価性、払戻し、第三者利用の有無などを確認します。

また、送金という言葉を使わなければ資金移動業の問題はないと単純に考えることもできません。売上金の預かり、ユーザー間の価値移転、マーケットプレイスの精算などは、仕組みによって確認が必要になる場合があります。

最後に、金融商品ではないと自社で決めつけるのも危険です。投資性、リターン、権利の内容、勧誘、資産管理の実態によって、金融商品取引法の確認が必要になることがあります。早い段階で専門家に資料を渡して確認することが重要です。

リリース前に止めて確認したい場面

決済・FinTech領域では、リリース直前に機能を少し変えただけで、確認すべき法令や契約が変わることがあります。たとえば、ポイントの利用範囲を広げる、ユーザー間で残高を移転できるようにする、売上金の出金を遅らせる、投資リターンを強調する、暗号資産に近い機能を追加するような場合です。

リリース前に止めて確認したい場面は次のとおりです。

  1. ユーザーから資金を預かる期間が生じる
  2. 第三者への支払い、送金、精算ができる
  3. ポイントや残高を第三者の商品に使える
  4. 払戻し、換金、出金の仕組みがある
  5. 利益分配、配当、値上がり益を訴求する
  6. 本人確認や反社会的勢力確認が必要になりそう
  7. 海外ユーザーや海外事業者が関係する
  8. 決済代行会社の禁止業種や審査条件に触れそう

これらに当てはまる場合でも、直ちに違法という意味ではありません。どの規制が関係するか、どの登録や届出、契約、表示、本人確認が必要になるかを確認するきっかけとして扱います。

金融規制は、プロダクトの体験だけでなく、バックエンドの資金管理、利用規約、会計処理、委託契約、カスタマーサポートまで影響します。早めに資料を作り、専門家や関係機関に相談できる状態にしておくことが重要です。

運用開始後のモニタリング

決済・FinTechサービスは、リリース後の運用でも確認が続きます。利用者数、取扱金額、未使用残高、不正利用の傾向、問い合わせ内容、返金件数、本人確認の否認率などを見ながら、体制を見直します。

初期は小規模な実証実験でも、利用が広がると、苦情対応、障害対応、資金保全、本人確認、反社会的勢力対応、委託先管理、セキュリティ監査が重くなります。利用規約や画面文言だけでなく、社内の運用手順が追いついているかを確認します。

法令やガイドライン、決済ネットワーク規約、アプリストア規約は変更されることがあります。金融領域では、サービス設計と規制環境の両方を定期的に見直し、変更がある場合には専門家に相談できる資料を更新しておくことが重要です。

また、問い合わせ内容は運用改善の重要な手がかりになります。ユーザーが残高、返金、出金、本人確認、利用停止の意味を理解できていない場合、画面表示やヘルプ、規約の説明を見直す必要があります。小さな混乱を早めに直すことで、後の苦情や不正利用対応の負担を減らせます。

参考リンク

この記事では、以下の公式・公的情報を参照しました。

資金決済法・金融商品取引法の条文はe-Gov法令検索で確認できます。金融庁ウェブサイトでは監督指針・事務ガイドライン・パブリックコメント結果等が公開されており、条文解釈の補足資料として活用できます。個別サービスの業規制該当性は弁護士(金融規制専門)への相談が最も確実であり、早期相談がプロダクト設計の手戻りを防ぐうえで重要です。