法令では、日常語なら同じ意味に見える言葉が、条文の構造や法的な効果を示すために使い分けられています。たとえば刑法(法令ID:140AC0000000045)の「又は」と「若しくは」は、どちらも選択を示しますが、同じ「または」に置き換えて一列に並べると、選択肢のまとまりが見えなくなることがあります。この記事では、e-Gov法令検索の刑法などの現行条文と、参議院法制局をはじめとする公式資料を基に、法令を読む人や平易な説明を作る人が押さえたい言い回しを整理します。個別の事件への当てはめではなく、条文に書かれた構造と効果を読み取る方法を扱います。
「又は」と「若しくは」は選択肢の階層を表す
二つの語は、どちらも選択的な接続に使われます。違いは、選択肢そのものの意味ではなく、どの語句が一つのまとまりかを示す点にあります。
労働政策研究・研修機構の法令用語解説によると、選択が一段階だけなら「A又はB」と書きます。選択に大小のまとまりがあるときは、最も大きな選択に「又は」を使い、その内側の選択に「若しくは」を使います。そのため、次のように括弧を補うと構造が見えます。
| 法令の書き方 | 構造を見せる書き方 | 読み方 |
|---|---|---|
| A又はB | A または B | AとBが同じ階層の選択肢 |
| A又はB若しくはC | A または(B または C) | Aと「B・Cの組」が大きな選択肢 |
| A若しくはB又はC若しくはD | (A または B)または(C または D) | 二つの小さな組を大きく接続 |
刑法第202条は、自殺への関与と本人の同意を得た殺人について、「教唆し若しくは幇助して自殺させ」る行為と、「嘱託を受け若しくは承諾を得て殺」す行為を「又は」で接続しています。構造は、次の二つです。
- 人を教唆または幇助して自殺させる
- 本人の嘱託または承諾を得て殺す
すべてを「教唆、幇助、嘱託、承諾のいずれか」と平らに並べると、各語がどの行為に結び付くかが崩れます。平易な説明では、「若しくは」を「または」に直すこと自体はできますが、番号、改行、括弧などで元の階層を残す必要があります。なお、これは法令の標準的な書き方を読むための規則です。実際の適用範囲を確定するときは、接続語だけでなく、主語、述語、定義、前後の規定も併せて確認します。
「及び」と「並びに」は結び付ける単位を示す
「及び」と「並びに」は、いずれも複数の要素を併せて示す接続語です。こちらは、小さいまとまりに「及び」、大きいまとまりに「並びに」を使います。
単純な接続は「A及びB」です。二段階なら「(A及びB)並びにC」、さらに大きなまとまりがあれば「並びに」を重ねます。労働施策総合推進法(法令ID:341AC0000000132)という略称で呼ばれる法律の正式名称も、この規則を読み取れる例です。「労働者の雇用の安定」と「職業生活の充実」が「及び」で一つの組になり、その組と「労働施策の総合的な推進」が「並びに」で結ばれています。
| 法令の書き方 | 構造を見せる書き方 | 平易な説明での表現例 |
|---|---|---|
| A及びB | A と B | AとBの両方 |
| A並びにB及びC | A と(B と C) | Aに加え、BとCの両方 |
| A及びB並びにC及びD | (A と B)と(C と D) | ①AとB、②CとDの二つの組 |
平易な文章で両方を「および」や「と」に直す場合も、元のまとまりを残すことが重要です。「及び」は小さな括弧、「並びに」はその外側の括弧を閉じる手掛かりだと考えると、長い条文を分解しやすくなります。ただし、接続されているのが名詞か、行為か、要件かによって文章の骨格は変わるため、接続語だけを抜き出して対象範囲を決めないようにします。
義務・禁止・権限は語尾の強さを保って読む
条文の結論は、多くの場合、文末の述語に置かれます。似た語尾を同じ「できない」「してください」に丸めると、義務、禁止、権限の違いが消えてしまいます。
参議院法制局の「法令用語と法解釈」は、「してはならない」を不作為を命じる禁止、「することができない」を法律上の能力や権利がないことを示す表現として区別しています。前者への違反は処罰の根拠になり得ますが、その文言だけから法律行為が無効になるとは限りません。後者は、行為の法律上の効力に影響し得る表現です。
また、「しなければならない」は義務を定める表現ですが、その違反にどのような制裁や効果があるかは、罰則や取消しなどの別の規定まで確認する必要があります。「努めなければならない」や「努めるものとする」は努力義務です。参議院法制局の努力義務規定の解説では、内容が理念的・抽象的で強制になじまない場合などに用いられることが紹介されています。
| 原文の語尾 | 条文が示すもの | 平易な説明の例 |
|---|---|---|
| しなければならない | 義務 | する義務があります |
| してはならない | 禁止 | することは禁止されています |
| することができる | 権限・選択の余地 | することができます |
| することができない | 法律上の能力・権利の否定など | 法律上、することができません |
| 努めなければならない | 努力義務 | 実現するよう努める義務があります |
平易化では、強い義務を「望ましいです」に弱めたり、努力義務を「必ずしなければなりません」に強めたりしないことが基本です。述語を先に確定し、誰が、何を、誰に対して行う規定なのかを組み立て直します。
「みなす」「推定する」と定義語は事実の扱いを変える
同じものとして扱う表現にも、反対の証明を許すかどうかという重要な違いがあります。さらに、法令内の定義は日常語より優先して、その適用範囲を決めます。
「みなす」は、一定の法律関係について別の事柄を同一のものとして扱う表現です。「推定する」は、反対の証拠や別段の合意が示されるまで、ひとまず一定の事実として扱う表現です。衆議院法務委員会の会議録でも、「みなす」は反証を許さず、「推定する」は反対の証拠などによって判断が変わり得る点が説明されています。
| 原文 | 扱い | 平易な説明で残すべき点 |
|---|---|---|
| Xとみなす | その規定の関係ではXとして扱う | 反対の証拠だけでは扱いを覆せないこと |
| Xと推定する | まずXとして扱う | 反対の証拠によって覆り得ること |
用語の意味が分からないときは、その条文だけでなく、前にある定義規定を探します。参議院法制局の「法令における用語の定義」によると、総則部分に独立した定義規定が置かれる場合、その定義は多くの例で法令全体に及びます。一方、括弧内で「以下『X』という」と定義する場合は、基本的にその位置より後の同じ用語に及びます。説明文では、定義語を一般的な辞書の意味に戻さず、「この法律でいうX」として範囲を保つ必要があります。
「その他」と「その他の」、例外と附則で範囲が変わる
一文字の有無や本文の後ろに置かれた規定が、対象範囲を変えることがあります。列挙だけを抜き出さず、例外や附則まで追うことが欠かせません。
「Aその他B」ではAとBが並列し、「Aその他のB」ではAがBに含まれる例として示されます。労働政策研究・研修機構の解説は、前者の例として、破産手続開始の決定と政令で定める事由を並列する条文を挙げています。この形では、破産手続開始の決定は政令の列挙に入っていなくても、法律自体によって対象になります。平易化するときに両方を「など」にすると、この関係が見えなくなるため、「Aのほか、B」と「AなどのB」を使い分けます。
「ただし」や「この限りでない」は、直前の原則から一定の場合を外す手掛かりです。ただし、「この限りでない」は、直前の結論を機械的に反転させる表現ではありません。その原則を適用しない結果、どの規定が働くかを前後から確認します。「前項の規定にかかわらず」は、前項より後の特則を優先させる手掛かりになります。
例外は同じ条のただし書にあるとは限りません。参議院法制局の例外規定の解説は、附則、特別措置法、施行法などに本則の例外が置かれる例を紹介しています。また、「見落とせない附則」が説明するように、附則には施行期日だけでなく、新旧制度の適用関係や従来の行為の効力も置かれます。条文を説明するときは、本文の原則、例外、例外の対象、例外時の効果を分け、附則による時期の限定も省かないようにします。
引用・準用・経過措置は参照先を展開して確認する
法令は、別の条項を引用して同じ規律を繰り返さないようにします。短い参照表現の背後に、複数の要件や読替えが隠れていることがあります。
「第X条を準用する」とあれば、参照先の条文を読むだけでなく、この場面に合わせて主体や用語がどのように対応するかを確認します。「同条中『A』とあるのは『B』とする」という読替えが付く場合は、AをBに置き換えた全文を一度組み立てると、要件と効果を追いやすくなります。参議院法制局の変更適用の解説も、会社法第130条を例に、字句を置き換えて規定を適用する読み方を示しています。
附則で使われる「なお従前の例による」と「なおその効力を有する」も、どちらも単なる「以前と同じ」ではありません。参議院法制局の経過規定の解説によると、前者では旧法令自体は失効し、経過規定が旧制度に沿った取扱いの根拠になります。後者では、旧法令そのものの効力が残ります。同解説は、下位法令への効力の及び方や、旧法令を改正できるかにも違いがあるとしています。
平易な説明では、「第X条を準用します」「従前の例によります」で止めず、読者に必要な範囲で参照先の主体、要件、手続、効果を展開します。ただし、元の条番号も残して、原文へ戻れるようにします。要約のために参照条文や経過措置を落とすと、現行制度と旧制度の境目が失われるためです。
条文を平易に説明するための読み取り手順
条文は先頭から一語ずつ言い換えるより、骨格を確定してから条件と例外を配置すると、意味を保ったまま読みやすくできます。
参議院法制局の法制セミナー「個々の『条文』を読むコツ」は、まず述語と主語を押さえ、次に客体を探し、条件、方法、時点などの修飾要素を見る手順を示しています。この考え方に、接続語、定義、例外、参照先の確認を加えると、次の順序になります。
- 述語を特定する:義務、禁止、権限、法的効果のどれかを確認します。
- 主語と客体を特定する:誰が、何を、誰に対して行うのかを確定します。
- 条件と時点を分ける:「場合」「とき」「限り」「際」などが修飾する範囲を区切ります。
- 接続語で括弧を補う:「又は・若しくは」「及び・並びに」が作る大小のまとまりを図にします。
- 定義と参照先を開く:定義条、括弧内定義、引用条文、政省令まで必要な範囲を確認します。
- 例外と附則を重ねる:原則から何が外れ、いつ、誰に、どの効果が残るかを確認します。
- 平易な文章へ再構成する:項・号の順序、数値、期限、例外、参照条文を残し、短い文や番号付きリストに分けます。
平易化の目的は、法令用語を日常語へ一対一で置換することではありません。条文が持つ論理構造を、一般の読者が追える形に組み替えることです。「若しくは」を「または」に、「並びに」を「および」に直しても構いませんが、括弧の階層は番号や段落で見えるようにします。義務の強さ、定義された範囲、例外、期限、参照先は省かず、説明の後から原文と照合できる状態を保つことが重要です。
参考リンク
法令用語は慣例によって形成された「型」を含みます。個々の語だけで結論を出さず、公式資料と現行条文を組み合わせて確認します。
- 参議院法制局「法律の[窓]」:法令用語、条文構造、附則、改正方式などのコラム一覧
- 参議院法制局「法令用語と法解釈」:法令用語を使い分ける理由と、禁止・能力の違い
- 参議院法制局「法律の現代語化・平易化」:表記を読みやすくしてきた経緯
- 労働政策研究・研修機構「法令を読む前に」:接続語、「その他」と「その他の」、「者・物・もの」の使い分け
- e-Gov法令検索:現行条文、施行日、改正履歴の確認
参議院法制局は、法令には正確さと厳密さが求められ、法令用語はそのための言葉の技術だと説明しています。一方、平易化は正確さと対立するものではありません。原文の語を減らすのではなく、構造を見える形に展開することで、正確さを保ちながら読みやすくできます。