第一条 この法律は、デジタル社会の進展に伴い民事裁判情報に対する需要が多様化していることに鑑み、民事裁判情報の活用の促進に関し、国の責務、法務大臣による基本方針の策定、民事裁判情報を加工して第三者に提供する業務等を行う法人の指定等について定めることにより、民事裁判情報の適正かつ効果的な活用のための基盤の整備を図り、もって創造的かつ活力ある社会の発展に資することを目的とする。
(定義等)第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 民事裁判情報
民事訴訟手続及び行政事件訴訟手続において作成された次に掲げる電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録されている事項に係る情報をいう。
イ 電子判決書(民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第二百五十二条第一項に規定する電子判決書をいい、同法第二百五十三条第二項の規定により裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。)に備えられたファイル(以下この号において単に「ファイル」という。)に記録されたものに限る。)
ロ 民事訴訟法第二百五十四条第二項の電子調書(同法第百六十条第二項の規定によりファイルに記録されたものに限る。)
ハ 電子決定書(民事訴訟法第百二十二条において準用する同法第二百五十二条第一項の規定により作成された電磁的記録をいい、同法第百二十二条において準用する同法第二百五十三条第二項の規定によりファイルに記録されたものに限る。)であって、法令の解釈適用について参考となる裁判に係るものとして法務省令で定めるもの
二 保有民事裁判情報
第五条第二項に規定する指定法人が第七条第一項の規定により最高裁判所から提供を受けた電磁的記録に記録されている民事裁判情報であって、当該指定法人が保有しているものをいう。
三 仮名加工民事裁判情報
保有民事裁判情報に含まれる特定の個人(当該保有民事裁判情報に係る裁判をした裁判官その他この号に規定する措置を講じなくてもその権利利益を害するおそれが少ないと認められる者として法務省令で定める者を除く。以下この号及び第十三条において同じ。)の氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる情報及び個人識別符号(個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第二条第二項に規定する個人識別符号をいう。以下この号において同じ。)の全部又は一部を削除する措置(当該情報及び個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の情報に置き換えることを含む。)を講じて他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように保有民事裁判情報を加工して得られる情報をいう。
四 民事裁判関連情報
民事裁判情報に関連する情報であって、当該民事裁判情報に係る裁判について上訴があった旨その他の民事裁判情報の活用の促進に資するものとして法務省令で定めるものをいう。
第三条 政府は、この法律の目的を達成するため、民事裁判情報の活用の促進のための施策を策定し、及び実施するとともに、最高裁判所その他の関係者と協力して、当該施策の適切な実施に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 最高裁判所は、民事裁判情報の活用の促進を図るため、民事裁判情報を記録した電磁的記録の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。 (基本方針)第四条 法務大臣は、民事裁判情報の活用の促進に関する基本的な方針(以下この条及び第八条第一項において「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。一 民事裁判情報の活用の促進の意義に関する事項
二 民事裁判情報の活用の促進のための施策に関する基本的な事項
三 保有民事裁判情報の管理及び提供に関する基本的な事項
四 前三号に掲げるもののほか、民事裁判情報の活用の促進に関する重要事項
3 法務大臣は、基本方針を定めるときは、あらかじめ、最高裁判所の意見を聴かなければならない。 4 法務大臣は、基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 5 前二項の規定は、基本方針の変更について準用する。 (指定等)第五条 法務大臣は、一般社団法人、一般財団法人その他営利を目的としない法人であって、次に掲げる要件を備えるものを、その申請により、全国に一を限って、次条第一項各号に掲げる業務(以下「民事裁判情報管理提供業務」という。)を行う者として指定することができる。
一 民事裁判情報管理提供業務を適正かつ確実に行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
二 役員又は職員の構成が民事裁判情報管理提供業務の公正な遂行に支障を及ぼすおそれがないものであること。
三 民事裁判情報管理提供業務以外の業務を行っている場合は、その業務を行うことによって民事裁判情報管理提供業務が不公正になるおそれがないものであること。
四 第十八条第一項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者でないこと。
五 役員のうちに次のいずれかに該当する者がないこと。 イ 拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
ロ この法律の規定に違反したことにより罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
第八条 指定法人は、基本方針に従って、民事裁判情報管理提供業務に関する規程(以下この条及び第十八条第一項第四号において「業務規程」という。)を定め、法務大臣の認可を受けなければならない。
2 業務規程には、次に掲げる事項を定めておかなければならない。一 保有民事裁判情報の加工の方法に関する事項
二 仮名加工民事裁判情報の提供を内容とする契約(第十条及び第十二条において「情報提供契約」という。)の締結に関する事項
三 保有民事裁判情報等の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有民事裁判情報等の安全管理に関する事項
四 料金に関する事項
五 苦情の処理に関する事項
六 前各号に掲げるもののほか、民事裁判情報管理提供業務の実施に必要な事項として法務省令で定める事項
(事業計画等)第九条 指定法人は、毎事業年度、事業計画及び収支予算を作成し、当該事業年度の開始前に(第五条第一項の規定による指定を受けた日の属する事業年度にあっては、その指定を受けた後遅滞なく)、法務大臣の認可を受けなければならない。
(法務省令への委任)第十九条 この法律に定めるもののほか、民事裁判情報管理提供業務に関し必要な事項は、法務省令で定める。
附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 ただし、第六条、第七条、第八条第三項、第九条第二項、第十条から第十八条まで、第二十条及び第二十一条の規定は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(民事裁判情報管理提供業務の準備行為)
第二条 指定法人は、前条ただし書に規定する規定の施行の日前においても、民事裁判情報管理提供業務の実施に必要な準備行為をすることができる。
(調整規定)
第三条 この法律の施行の日が民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和四年法律第四十八号)の施行の日前である場合には、同法の施行の日の前日までの間は、第二条第一項第一号中「民事訴訟法」とあるのは、「民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和四年法律第四十八号)第二条の規定による改正後の民事訴訟法」とする。
(検討)
第五条 政府は、附則第一条ただし書に規定する規定の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。