第一章 総則
(目的)第一条 この法律は、デジタル社会の発展に伴い、学校における情報通信技術の活用により学校教育が直面する課題の解決及び学校教育の一層の充実を図ることが重要となっていることに鑑み、全ての児童生徒がその状況に応じて効果的に教育を受けることができる環境の整備を図るため、学校教育の情報化の推進に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにし、及び学校教育の情報化の推進に関する計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって次代の社会を担う児童生徒の育成に資することを目的とする。
(定義)第二条 この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。
2 この法律において「学校教育の情報化」とは、学校の各教科等の指導等における情報通信技術の活用及び学校における情報教育(情報及び情報手段(電子計算機、情報通信ネットワークその他の情報処理又は情報の流通のための手段をいう。次条第一項において同じ。)を主体的に選択し、及びこれを活用する能力の育成を図るための教育をいう。第十四条において同じ。)の充実並びに学校事務(学校における事務をいう。以下同じ。)における情報通信技術の活用をいう。 3 この法律において「児童生徒」とは、学校に在籍する児童又は生徒をいう。 4 この法律において「デジタル教材」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)として作成される教材をいう。 5 この法律において「デジタル教科書」とは、教科書に代えて、又は教科書として使用されるデジタル教材をいう。 (基本理念)第三条 学校教育の情報化の推進は、情報通信技術の特性を生かして、個々の児童生徒の能力、特性等に応じた教育、双方向性のある教育(児童生徒の主体的な学習を促す教育をいう。)等が学校の教員による適切な指導を通じて行われることにより、各教科等の指導等において、情報及び情報手段を主体的に選択し、及びこれを活用する能力の体系的な育成その他の知識及び技能の習得等(心身の発達に応じて、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力を育み、主体的に学習に取り組む態度を養うことをいう。)が効果的に図られるよう行われなければならない。
2 学校教育の情報化の推進は、デジタル教科書その他のデジタル教材を活用した学習その他の情報通信技術を活用した学習とデジタル教材以外の教材を活用した学習、体験学習等とを適切に組み合わせること等により、多様な方法による学習が推進されるよう行われなければならない。 3 学校教育の情報化の推進は、全ての児童生徒が、その家庭の経済的な状況、居住する地域、障害の有無等にかかわらず、等しく、学校教育の情報化の恵沢を享受し、もって教育の機会均等が図られるよう行われなければならない。 4 学校教育の情報化の推進は、情報通信技術を活用した学校事務の効率化により、学校の教職員の負担が軽減され、児童生徒に対する教育の充実が図られるよう行われなければならない。 5 学校教育の情報化の推進は、児童生徒等の個人情報の適正な取扱い及びサイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定するサイバーセキュリティをいう。第十七条において同じ。)の確保を図りつつ行われなければならない。 6 学校教育の情報化の推進は、児童生徒による情報通信技術の利用が児童生徒の健康、生活等に及ぼす影響に十分配慮して行われなければならない。 (国の責務)第四条 国は、前条の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、学校教育の情報化の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。
(学校の設置者の責務)第六条 学校の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校における学校教育の情報化の推進のために必要な措置を講ずる責務を有する。
(法制上の措置等)第七条 政府は、学校教育の情報化の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 学校教育情報化推進計画等
(学校教育情報化推進計画)第八条 文部科学大臣は、学校教育の情報化の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、学校教育の情報化の推進に関する計画(以下「学校教育情報化推進計画」という。)を定めなければならない。
2 学校教育情報化推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。一 学校教育の情報化の推進に関する基本的な方針
二 学校教育情報化推進計画の期間
三 学校教育情報化推進計画の目標
四 学校教育の情報化の推進に関する施策に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
五 前各号に掲げるもののほか、学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 学校教育情報化推進計画は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第十七条第一項に規定する基本的な計画との調和が保たれたものでなければならない。 4 文部科学大臣は、情勢の推移により必要が生じたときは、学校教育情報化推進計画を変更するものとする。 5 文部科学大臣は、学校教育情報化推進計画を定め、又は変更しようとするときは、総務大臣、経済産業大臣その他の関係行政機関の長と協議しなければならない。 6 文部科学大臣は、学校教育情報化推進計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 (都道府県学校教育情報化推進計画等)第九条 都道府県は、学校教育情報化推進計画を基本として、その都道府県の区域における学校教育の情報化の推進に関する施策についての計画(以下この条において「都道府県学校教育情報化推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 市町村(特別区を含む。以下この条において同じ。)は、学校教育情報化推進計画(都道府県学校教育情報化推進計画が定められているときは、学校教育情報化推進計画及び都道府県学校教育情報化推進計画)を基本として、その市町村の区域における学校教育の情報化の推進に関する施策についての計画(次項において「市町村学校教育情報化推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。 3 都道府県又は市町村は、都道府県学校教育情報化推進計画又は市町村学校教育情報化推進計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。第三章 学校教育の情報化の推進に関する施策
(デジタル教材等の開発及び普及の促進)第十条 国は、情報通信技術を活用した多様な方法による学習を促進するため、デジタル教材等(デジタル教材及びデジタル教材を利用するための情報通信機器をいう。次項において同じ。)、情報通信技術を活用した教育方法等の開発及び普及の促進に必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、障害の有無にかかわらず全ての児童生徒が円滑に利用することができるデジタル教材等の開発の促進に必要な措置を講ずるものとする。 (教科書に係る制度の見直し)第十一条 国は、前条第一項の学習を促進するため、教科書として使用することが適切な内容のデジタル教材について各教科等の授業においてデジタル教科書として使用することができるよう、その教育効果を検証しつつ、教科書に係る制度(教科書の位置付け及び教科書に係る検定、義務教育諸学校の児童生徒への教科書の無償の供与、教科書への掲載に係る著作物の利用等に関する制度をいう。次項において同じ。)について検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、前項の措置の実施の状況等を踏まえ、学校における情報通信技術の活用のための環境の整備の状況等を考慮しつつ、教科書に係る制度の在り方について不断の見直しを行うものとする。 (障害のある児童生徒の教育環境の整備)第十二条 国は、情報通信技術の活用により可能な限り障害のある児童生徒が障害のない児童生徒と共に教育を受けることができる環境の整備が図られるよう、必要な施策を講ずるものとする。
(相当の期間学校を欠席する児童生徒に対する教育の機会の確保)第十三条 国は、情報通信技術の活用により疾病による療養その他の事由のため相当の期間学校を欠席する児童生徒に対する教育の機会の確保が図られるよう、必要な施策を講ずるものとする。
(学校の教職員の資質の向上)第十四条 国は、情報通信技術を活用した効果的な教育方法の普及、情報通信技術の活用による教育方法の改善及び情報教育の充実並びに情報通信技術の活用による学校事務の効率化を図るため、学校の教員の養成及び学校の教職員の研修を通じたその資質の向上のために必要な施策を講ずるものとする。
(学校における情報通信技術の活用のための環境の整備)第十五条 国は、デジタル教材の円滑な使用を確保するための情報通信機器その他の機器の導入及び情報通信ネットワークを利用できる環境の整備、学校事務に係る情報システムの構築その他の学校における情報通信技術の活用のための環境の整備に必要な施策を講ずるものとする。
(学習の継続的な支援等のための体制の整備)第十六条 国は、児童生徒に対する学習の継続的な支援等が円滑に行われるよう、情報通信技術の活用により児童生徒の学習活動の状況等に関する情報を学校間及び学校の教職員間で適切に共有する体制を整備するために必要な施策を講ずるものとする。
(個人情報の保護等)第十七条 国は、児童生徒及び学校の教職員が情報通信技術を適切にかつ安心して利用することができるよう、学校における児童生徒等の個人情報の適正な取扱い及びサイバーセキュリティの確保を図るため、学校におけるサイバーセキュリティに関する統一的な基準の策定、研修の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。
(人材の確保等)第十八条 国は、学校の教職員による情報通信技術の活用を支援する人材の確保、養成及び資質の向上が図られるよう、必要な施策を講ずるものとする。
(調査研究等の推進)第十九条 国は、デジタル教材の教育効果、情報通信技術の利用が児童生徒の健康、生活等に及ぼす影響等に関する調査研究、情報通信技術の進展に伴う新たなデジタル教材、教育方法等の研究開発等の推進及びその成果の普及に必要な施策を講ずるものとする。
(国民の理解と関心の増進)第二十条 国は、学校教育の情報化の重要性に関する国民の理解と関心を深めるよう、学校教育の情報化に関する広報活動及び啓発活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。
(地方公共団体の施策)第二十一条 地方公共団体は、第十条から前条までの国の施策を勘案し、その地方公共団体の地域の状況に応じた学校教育の情報化のための施策の推進を図るよう努めるものとする。
第四章 学校教育情報化推進会議
第二十二条 政府は、関係行政機関(文部科学省、総務省、経済産業省その他の関係行政機関をいう。次項において同じ。)相互の調整を行うことにより、学校教育の情報化の総合的、一体的かつ効果的な推進を図るため、学校教育情報化推進会議を設けるものとする。
2 関係行政機関は、学校教育の情報化に関し専門的知識を有する者によって構成する学校教育情報化推進専門家会議を設け、前項の調整を行うに際しては、その意見を聴くものとする。附則
この法律は、公布の日から施行する。附則(令和三年五月一九日法律第三五号)
(施行期日)
第一条 この法律は、令和三年九月一日から施行する。