第一章 総則
(目的)第一条 この法律は、貧困により、こどもが適切な養育及び教育並びに医療を受けられないこと、こどもが多様な体験の機会を得られないことその他のこどもがその権利利益を害され及び社会から孤立することのないようにするため、日本国憲法第二十五条その他の基本的人権に関する規定、児童の権利に関する条約及びこども基本法(令和四年法律第七十七号)の精神にのっとり、こどもの貧困の解消に向けた対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及びこどもの貧困の解消に向けた対策の基本となる事項を定めることにより、こどもの貧困の解消に向けた対策を総合的に推進することを目的とする。
(定義)第二条 この法律において「こども」とは、こども基本法第二条第一項に規定するこどもをいう。
(基本理念)第三条 こどもの貧困の解消に向けた対策は、社会のあらゆる分野において、こどもの年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、こどもが心身ともに健やかに育成されることを旨として、推進されなければならない。
2 こどもの貧困の解消に向けた対策は、貧困により、こどもがその権利利益を害され及び社会から孤立することが深刻な問題であることを踏まえ、こどもの現在の貧困を解消するとともにこどもの将来の貧困を防ぐことを旨として、推進されなければならない。 3 こどもの貧困の解消に向けた対策は、教育の支援、生活の安定に資するための支援、保護者に対する職業生活の安定と向上に資するための就労の支援、経済的支援等の施策を、貧困により、こどもがその権利利益を害され及び社会から孤立することのない社会を実現することを旨として、こども及びその家族の生活及び取り巻く環境の状況に応じて包括的かつ早期に講ずることにより、推進されなければならない。 4 こどもの貧困の解消に向けた対策は、貧困の状況にある者の妊娠から出産まで及びそのこどもがおとなになるまでの過程の各段階における支援が切れ目なく行われるよう、推進されなければならない。 5 こどもの貧困の解消に向けた対策は、こどもの貧困がその家族の責任に係る問題としてのみ捉えられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、こどもの貧困に関する国民の理解を深めることを通じて、社会的な取組として推進されなければならない。 6 こどもの貧困の解消に向けた対策は、国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携の下に、関連分野における総合的な取組として行われなければならない。 (国の責務)第四条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、こどもの貧困の解消に向けた対策を総合的に策定し及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、こどもの貧困の解消に向けた対策に関し、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し及び実施する責務を有する。
(国民の責務)第六条 国民は、国又は地方公共団体が実施するこどもの貧困の解消に向けた対策に協力するよう努めなければならない。
(法制上の措置等)第七条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)第八条 政府は、毎年、国会に、こどもの貧困の状況及びこどもの貧困の解消に向けた対策の実施の状況に関する報告を提出するとともに、これを公表しなければならない。
2 こども基本法第八条第一項の規定による国会への報告及び公表がされたときは、前項の規定による国会への報告及び公表がされたものとみなす。第二章 基本的施策
(こどもの貧困の解消に向けた対策に関する大綱)第九条 政府は、こどもの貧困の解消に向けた対策を総合的に推進するため、こどもの貧困の解消に向けた対策に関する大綱(以下この条及び次条において単に「大綱」という。)を定めなければならない。
2 大綱は、次に掲げる事項について定めるものとする。一 こどもの貧困の解消に向けた対策に関する基本的な方針
二 こどもの貧困率、ひとり親世帯の貧困率、ひとり親世帯の養育費受領率、生活保護世帯に属するこどもの高等学校等進学率、生活保護世帯に属するこどもの大学等進学率等こどもの貧困に関する指標及び当該指標の改善に向けた施策
三 教育の支援、生活の安定に資するための支援、保護者に対する職業生活の安定と向上に資するための就労の支援、経済的支援その他のこどもの貧困の解消に向けた対策に関する事項
四 こどもの貧困に関する調査及び研究に関する事項
五 こどもの貧困の解消に向けた対策に関する施策の実施状況についての検証及び評価並びに当該施策の効果を評価するために必要な指標の調査及び研究その他のこどもの貧困の解消に向けた対策に関する施策の推進体制に関する事項
3 政府は、大綱を定めるに当たり、貧困の状況にあるこども及びその家族、学識経験者、こどもの貧困の解消に向けた対策に係る活動を行う民間の団体その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。 4 こども基本法第九条第一項の規定により定められた同項のこども大綱のうち第二項各号に掲げる事項に係る部分は、第一項の規定により定められた大綱とみなす。 5 第二項第二号の「こどもの貧困率」、「ひとり親世帯の貧困率」、「ひとり親世帯の養育費受領率」、「生活保護世帯に属するこどもの高等学校等進学率」及び「生活保護世帯に属するこどもの大学等進学率」の定義は、政令で定める。 (都道府県計画等)第十条 都道府県は、大綱を勘案して、当該都道府県におけるこどもの貧困の解消に向けた対策についての計画(次項及び第三項において「都道府県計画」という。)を定めるよう努めるものとする。
2 市町村は、大綱(都道府県計画が定められているときは、大綱及び都道府県計画)を勘案して、当該市町村におけるこどもの貧困の解消に向けた対策についての計画(次項において「市町村計画」という。)を定めるよう努めるものとする。 3 都道府県又は市町村は、都道府県計画又は市町村計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 (教育の支援)第十一条 国及び地方公共団体は、教育の機会均等が図られるとともに、貧困の状況にあるこどもに対する学校教育の充実が図られるよう、就学の援助、学資の援助、学習の支援、学校教育の体制の整備その他の貧困の状況にあるこどもの教育に関する支援のために必要な施策を講ずるものとする。
(生活の安定に資するための支援)第十二条 国及び地方公共団体は、貧困の状況にあるこども及びその家族に対する生活に関する相談並びに住居の確保及び保健医療サービスの利用に係る支援、貧困の状況にあるこどもに対する社会との交流の機会の提供その他の貧困の状況にあるこどもの生活の安定に資するための支援に関し必要な施策を講ずるものとする。
(保護者に対する職業生活の安定と向上に資するための就労の支援)第十三条 国及び地方公共団体は、貧困の状況にあるこどもの保護者に対する職業訓練の実施及び就職のあっせんその他の貧困の状況にあるこどもの保護者の雇用の安定及び所得の増大その他の職業生活の安定と向上に資するための就労の支援に関し必要な施策を講ずるものとする。
(経済的支援)第十四条 国及び地方公共団体は、貧困の状況にあるこども及びその家族の生活の実態を踏まえた各種の手当等の支給、貸付金の貸付けその他の貧困の状況にあるこどもに対する経済的支援のために必要な施策を講ずるものとする。
(民間の団体の活動の支援)第十五条 国及び地方公共団体は、民間の団体が行う貧困の状況にあるこども及びその家族に対する支援に関する活動を支援するため、財政上の措置その他の必要な施策を講ずるものとする。
(調査研究等)第十六条 国及び地方公共団体は、こどもの貧困の解消に向けた対策を適正に策定し及び実施するため、次に掲げる事項についての調査及び研究並びにこどもの貧困の解消に向けた対策の実施状況の検証並びにそれらの成果の活用の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。
一 こどもの貧困の実態
二 こどもの貧困に関する指標
三 貧困の状況にあるこども及びその家族の支援の在り方
四 こどもの将来の貧困を防ぐための施策の在り方
五 地域の状況に応じたこどもの貧困の解消に向けた対策の在り方
附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
第二条 政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
附則(令和元年六月一九日法律第四一号)
この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後の子どもの貧困対策の推進に関する法律(以下この項において「新法」という。)の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。附則(令和四年六月二二日法律第七七号)
(施行期日)
第一条 この法律は、令和五年四月一日から施行する。
附則(令和六年六月二六日法律第六八号)
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律による改正前の子どもの貧困対策の推進に関する法律(次項において「旧法」という。)第八条第一項の規定により定められた同項の大綱は、この法律の施行後は、この法律による改正後のこどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律(次項及び次条において「新法」という。)第九条第一項の規定により定められた同項の大綱とみなす。 旧法第九条第一項の規定により定められた同項の都道府県計画(変更があったときは、その変更後のもの)又は同条第二項の規定により定められた同項の市町村計画(変更があったときは、その変更後のもの)は、この法律の施行後は、それぞれ新法第十条第一項の規定により定められた同項の都道府県計画又は同条第二項の規定により定められた同項の市町村計画とみなす。
(検討)
第三条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、新法の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。