第一条 この法律は、欧州連合により講じられるイラン・イスラム共和国(次条第五号及び附則第二条において「イラン」という。)を原産地とする原油(以下「イラン産原油」という。)を輸送するタンカーに係る保険契約についての再保険の引受けを禁止する措置により、特定タンカーについて船舶油濁等損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号。以下「油賠法」という。)第十三条第一項に規定する保障契約の締結等が困難となることに対応して、特定タンカー所有者との間で特定賠償義務履行担保契約を締結する者に対し、当該特定賠償義務履行担保契約の義務の履行として支払われる金銭の額に相当する金額の交付金を政府が交付する制度を設ける等の特別の措置について定めるものとする。
(定義)第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 タンカー
油賠法第二条第九号に規定するタンカーをいう。
二 特定タンカー
イラン産原油を含む原油の我が国への輸送の用に供するタンカー(我が国においてのみ原油の取卸しをするものに限る。)をいう。
三 タンカー所有者
油賠法第二条第十一号に規定するタンカー所有者をいう。
四 特定タンカー所有者
特定タンカーのタンカー所有者(特定タンカーの船舶賃借人その他の国土交通省令で定める者であって、特定タンカーのタンカー所有者と共同で特定損害保険契約の被保険者となっているものを含む。)をいう。
五 特定運航
特定タンカーがイラン産原油を積み込むためにイランに向けて運航を開始する時から当該特定タンカーに積み込んだイラン産原油を含む原油の取卸しを完了する時までの間における特定タンカーの運航をいう。
六 タンカー油濁損害
油賠法第二条第十四号に規定するタンカー油濁損害をいう。
七 特定損害
次に掲げる損害又は費用をいう。
イ 特定運航に伴って生ずるタンカー油濁損害(特定費用に該当するものを除く。)
ロ 特定運航に伴って生ずる損害又は費用であって、イに掲げるもの以外のもの(特定費用に該当するものを除く。次条第二項第三号において「非油濁損害」という。)
八 特定費用
特定運航に伴って生ずる費用で特定タンカー所有者が負担しなければならないものをいう。
九 特定損害等
特定損害及び特定費用をいう。
十 特定損害保険契約
特定タンカーごとに締結される、特定タンカー所有者が特定損害の賠償の責任を負う場合又は特定タンカー所有者が特定費用を支払うべき場合においてその賠償の義務の履行又は費用の支払により当該特定タンカー所有者に生ずる損害(以下「特定タンカー所有者損害」という。)を塡補する保険契約であって、次に掲げる要件を満たすものをいう。
イ 保険金額が、当該保険契約について再保険の引受けが行われないことによる保険者の保険金の支払能力を勘案して政令で定める金額以上のものであること。
ロ 二千トンを超えるばら積みの原油の輸送の用に供する特定タンカーについて締結されるものにあっては、油賠法第十四条第一項、第二項及び第四項の規定に適合するものであること。
ハ 総トン数が千トンを超える特定タンカー(その航行に際し油賠法第二条第七号に規定する燃料油等を用いることを要しないものを除く。)について締結されるものにあっては、油賠法第四十二条第一項、第二項及び第四項の規定に適合するものであること。
ニ 総トン数が三百トン以上の特定タンカーについて締結されるものにあっては、油賠法第五十条第一項、第二項及び第四項の規定に適合するものであること。
十一 特定賠償義務履行担保契約
特定損害保険契約の保険者(以下「特定保険者」という。)がその被保険者である特定タンカー所有者との間で特定タンカーごとに締結する契約であって、特定タンカー所有者が特定損害の賠償の責任を負う場合又は特定タンカー所有者が特定費用を支払うべき場合において特定損害等(当該特定損害保険契約により塡補される特定タンカー所有者損害に係るものを除く。)についてその賠償の義務の履行及び費用の支払を担保するもの(次に掲げる要件を満たすものに限る。)をいう。
イ 賠償の義務の履行及び費用の支払が担保されている特定損害等の種類が、当該特定損害保険契約において塡補することができることとされている特定タンカー所有者損害に係る特定損害等の種類と同一のものであること。
ロ 賠償の義務の履行及び費用の支払が担保されている特定損害等の金額が、タンカーに係る保険契約の保険金額の国際的な水準を勘案して政令で定める金額から当該特定損害保険契約の保険金額を控除した金額(以下「担保上限金額」という。)を超えないものであること。
ハ 二千トンを超えるばら積みの原油の輸送の用に供する特定タンカーについて締結されるものにあっては、当該特定損害保険契約と併せて油賠法第十四条の規定に適合するものであること。
ニ 総トン数が千トンを超える特定タンカー(その航行に際し油賠法第二条第七号に規定する燃料油等を用いることを要しないものを除く。)について締結されるものにあっては、当該特定損害保険契約と併せて油賠法第四十二条の規定に適合するものであること。
ホ 総トン数が三百トン以上の特定タンカーについて締結されるものにあっては、当該特定損害保険契約と併せて油賠法第五十条の規定に適合するものであること。
ヘ 手数料その他これに類する名目で特定タンカー所有者が特定保険者に支払う金銭の額が、当該契約の締結及び履行のために要する費用の額に相当する金額を超えないものであること。
十二 総トン数
油賠法第七条に規定する総トン数をいう。
第三条 政府は、特定タンカー所有者で特定賠償義務履行担保契約を締結しているものを相手方として、特定タンカーごとに、特定保険者が当該特定賠償義務履行担保契約に基づく義務の履行としての金銭の支払をする場合に、政府が当該特定保険者に対し当該特定保険者が支払う金銭(以下「交付対象金銭」という。)の額に相当する金額の交付金(以下「特定保険者交付金」という。)を交付することを約し、特定タンカー所有者が納付金を納付することを約する契約(以下「特定保険者交付金交付契約」という。)を締結することができる。
2 政府が特定保険者交付金交付契約により同一の事故から生じた特定損害のうち次の各号に掲げるものに該当するものに係る交付対象金銭についての特定保険者交付金を交付する場合において、当該交付対象金銭の額が当該各号に定める金額を超えるときは、当該各号に定める金額を当該交付対象金銭の額として、前項の規定を適用する。一 タンカー油濁損害のうちこれに基づく債権について油賠法又はこれに相当する外国の法令の規定により特定タンカー所有者がその責任を制限することができるもの(以下この号及び次号において「特定油濁損害」という。)であって、総トン数五千トン以下の特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの
油賠法第六条第一号の金額から特定損害保険契約により当該特定油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
二 特定油濁損害であって、総トン数五千トンを超える特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの
油賠法第六条第二号の規定により算出した金額から特定損害保険契約により当該特定油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
三 非油濁損害のうちこれに基づく債権について船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号。以下この項において「責任制限法」という。)又はこれに相当する外国の法令の規定により特定タンカー所有者がその責任を制限することができるもの(以下この項において「特定非油濁損害」という。)であって、総トン数二千トン以下の特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの(責任制限法第七条第一項第一号に規定する場合におけるものに限る。)
同号イの金額から特定損害保険契約により当該特定非油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
四 特定非油濁損害であって、総トン数二千トン以下の特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの(前号に掲げるものを除く。)
責任制限法第七条第一項第二号イの金額から特定損害保険契約により当該特定非油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
五 特定非油濁損害であって、総トン数二千トンを超える特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの(責任制限法第七条第一項第一号に規定する場合におけるものに限る。)
同号ロの規定により算出した金額から特定損害保険契約により当該特定非油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
六 特定非油濁損害であって、総トン数二千トンを超える特定タンカーの特定運航に伴って生じたもの(前号に掲げるものを除く。)
責任制限法第七条第一項第二号ロの規定により算出した金額から特定損害保険契約により当該特定非油濁損害に係る特定タンカー所有者損害の塡補として支払われる金額に相当する金額を控除した金額
第四条 特定保険者交付金交付契約の期間は、その締結の時からその時の属する会計年度の末日までとする。
(納付金)第五条 納付金の金額は、一年当たり、タンカーに係る保険契約の保険料の金額の国際的な水準を勘案して政令で定める金額とする。
(特定保険者交付金)第六条 政府が特定保険者交付金交付契約により交付する特定保険者交付金の金額は、当該特定保険者交付金交付契約の期間内における特定運航に伴って生ずる特定損害等に係る交付対象金銭について担保上限金額を限度とする。
(特定保険者交付金交付契約の締結の限度)第七条 政府は、一会計年度内に締結する特定保険者交付金交付契約に係る担保上限金額の合計額が会計年度ごとに国会の議決を経た金額を超えない範囲内で、特定保険者交付金交付契約を締結するものとする。
(通知)第八条 特定保険者交付金交付契約の相手方である特定タンカー所有者は、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、特定運航の開始日時を政府に対し通知しなければならない。
(報告の徴収)第九条 政府は、この法律の施行に必要な限度において、特定保険者交付金交付契約の相手方である特定タンカー所有者に対し、特定運航の状況その他必要な事項について報告を求めることができる。
(時効)第十条 特定保険者交付金の交付を受ける権利は、これを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
(代位等)第十一条 政府は、特定保険者交付金交付契約により特定保険者交付金を交付した場合において、当該特定保険者交付金の交付を受けた特定保険者が第三者(当該特定保険者交付金交付契約の相手方である特定タンカー所有者を含む。次項において同じ。)に対して求償権を有するときは、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額を限度として当該求償権を取得する。
一 当該特定保険者に政府が交付した特定保険者交付金の金額
二 当該求償権の金額
2 特定保険者交付金交付契約により特定保険者交付金の交付を受ける特定保険者が第三者に対する求償権の行使により支払を受けたときは、政府は、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額の限度で、特定保険者交付金の交付の義務を免れる。一 当該特定保険者が当該求償権の行使により支払を受けた金額
二 当該特定保険者交付金交付契約に係る交付対象金銭について第六条の規定により政府が特定保険者交付金の交付の義務を負う金額
(特定保険者交付金交付契約の解除)第十二条 政府は、特定保険者交付金交付契約の相手方である特定タンカー所有者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該特定保険者交付金交付契約を解除することができる。
一 解除その他の事由により特定損害保険契約又は特定賠償義務履行担保契約を締結している者でなくなったとき。
二 政令で定める期限までに納付金を納付しなかったとき。
三 第八条の規定による通知をせず、又は虚偽の通知をしたとき。
四 第九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
五 船舶安全法(昭和八年法律第十一号)、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)その他の政令で定める法律(これらに基づく命令を含む。)又はこれらに相当する外国の法令の規定に違反したとき。
六 当該特定保険者交付金交付契約の条項に違反したとき。
2 前項の規定による特定保険者交付金交付契約の解除は、当該特定保険者交付金交付契約の相手方である特定タンカー所有者が解除の通知を受けた日から起算して三月を経過した日から将来に向かってその効力を生ずる。 3 政府は、第一項の規定により特定保険者交付金交付契約を解除したときは、直ちに、当該特定保険者交付金交付契約に係る特定保険者に対し、その旨を通知するものとする。 (業務の管掌)第十三条 この法律に規定する政府の業務は、国土交通大臣が管掌する。
2 国土交通大臣は、特定保険者交付金交付契約を締結しようとする場合には、あらかじめ、内閣総理大臣、外務大臣、財務大臣及び経済産業大臣に協議しなければならない。 3 国土交通大臣は、特定保険者交付金交付契約を解除しようとする場合には、あらかじめ、内閣総理大臣、外務大臣及び経済産業大臣に協議しなければならない。 (船主相互保険組合法の特例)第十四条 船主相互保険組合法(昭和二十五年法律第百七十七号)第二条第三項に規定する船主責任相互保険組合は、同法第四条第五項の規定にかかわらず、特定賠償義務履行担保契約に関する業務に係る事業を行うことができる。
(国土交通省令への委任)第十五条 この法律に定めるもののほか、特定保険者交付金交付契約の締結の手続その他この法律を実施するために必要な事項は、国土交通省令で定める。
附則
(施行期日等)
第一条 この法律は、公布の日から施行し、欧州連合により講じられるイラン産原油を輸送するタンカーに係る保険契約についての再保険の引受けを禁止する措置により当該再保険の引受けが行われなくなると認められる日として内閣総理大臣、外務大臣及び国土交通大臣が告示する日以後に生ずる特定損害等について適用する。
(この法律の廃止)
第二条 この法律は、イランをめぐる国際情勢その他の情勢の変化により、特定タンカーについて、特定タンカー所有者損害を塡補するための保険契約であってその保険金額が第二条第十一号ロの政令で定める金額以上のものの締結が可能であると認められるに至ったとき、又は特定運航が行われなくとも国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に支障を生じないと認められるに至ったときは、速やかに、廃止するものとする。
(平成二十四年度における特定保険者交付金交付契約の限度額)
第三条 平成二十四年度において政府が特定保険者交付金交付契約を締結する場合には、その担保上限金額の合計額が九兆千三百二十二億八千七百六十七万円を超えない範囲内において、これをするものとする。 ただし、第七条の規定に基づく国会の議決がなされた場合には、この限りでない。
附則(平成二九年六月二日法律第四五号)
この法律は、民法改正法の施行の日から施行する。 ただし、第百三条の二、第百三条の三、第二百六十七条の二、第二百六十七条の三及び第三百六十二条の規定は、公布の日から施行する。附則(令和元年五月三一日法律第一八号)
(施行期日)
第一条 この法律は、二千一年の燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約及び二千七年の難破物の除去に関するナイロビ国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。