第一章 総則
(目的)第一条 この省令は、信託法(平成十八年法律第百八号。以下「法」という。)の規定により委任された信託の計算に関する事項その他の事項について、必要な事項を定めることを目的とする。
(定義)第二条 この省令において使用する用語は、法において使用する用語の例による。
2 この省令において「電磁的記録」とは、法第三条第三号に規定する電磁的記録をいう。 (会計慣行のしん酌)第三条 この省令の用語の解釈及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行をしん酌しなければならない。
第二章 信託帳簿及び財産状況開示資料の作成
(信託帳簿等の作成)第四条 法第三十七条第一項の規定による信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録(以下この条及び次条において「信託帳簿」という。)の作成及び法第三十七条第二項の規定による同項の書類又は電磁的記録の作成については、この条に定めるところによる。
2 信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。 3 法第三十七条第二項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、この条の規定により作成される財産状況開示資料とする。 4 財産状況開示資料は、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものでなければならない。 5 財産状況開示資料は、信託帳簿に基づいて作成しなければならない。 6 信託帳簿又は財産状況開示資料の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならない。 (会計帳簿等を作成すべき信託の特例)第五条 前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する信託については、法第二百二十二条第二項の会計帳簿を受託者が作成すべき信託帳簿とし、同条第四項の規定により作成すべき書類又は電磁的記録を受託者が作成すべき財産状況開示資料とする。
一 当該信託の受益権(二以上の受益権がある場合にあっては、そのすべての受益権)について法第九十三条第一項ただし書の規定の適用がなく、かつ、当該受益権について譲渡の制限がないこと。
二 第三者の同意又は承諾を得ることなく信託財産に属する財産のうち主要なものの売却若しくは信託財産に属する財産の全部若しくは大部分の売却又はこれらに準ずる行為を行う権限を当該信託の受託者が信託行為によって有していること。
2 前条の規定にかかわらず、前項に規定する信託においては、信託帳簿及び財産状況開示資料の作成は、次章(第二十条及び第三節を除く。)の規定に従って行わなければならない。第三章 限定責任信託の計算
第一節 会計帳簿
第一款 総則
第六条 法第二百二十二条第二項の規定による会計帳簿の作成については、他の法令に別段の定めがある場合を除き、この節に定めるところによる。
会計帳簿の作成は、書面又は電磁的記録をもってしなければならない。第二款 資産及び負債
(資産の評価)第七条 資産については、この省令に別段の定めがある場合を除き、会計帳簿にその取得価額を付さなければならない。
償却すべき資産については、信託事務年度の末日(信託事務年度の末日以外の日において評価すべき場合にあっては、その日。以下この条及び次条において同じ。)において、相当の償却をしなければならない。 次の各号に掲げる資産については、信託事務年度の末日において当該各号に定める価格を付すべき場合には、当該各号に定める価格を付さなければならない。一 信託事務年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産(当該資産の時価がその時の取得原価まで回復すると認められるものを除く。) 信託事務年度の末日における時価
二 信託事務年度の末日において予測することができない減損が生じた資産又は減損損失を認識すべき資産 その時の取得原価から相当の減額をした額
取立不能のおそれのある債権については、信託事務年度の末日においてその時に取り立てることができないと見込まれる額を控除しなければならない。 債権については、その取得価額が債権金額と異なる場合その他相当の理由がある場合には、適正な価格を付すことができる。 次に掲げる資産については、信託事務年度の末日においてその時の時価又は適正な価格を付すことができる。一 信託事務年度の末日における時価がその時の取得原価より低い資産
二 前号に掲げる資産のほか、信託事務年度の末日においてその時の時価又は適正な価格を付すことが適当な資産
(負債の評価)第八条 負債については、この省令に別段の定めがある場合を除き、会計帳簿に債務額を付さなければならない。
次に掲げる負債については、信託事務年度の末日においてその時の時価又は適正な価格を付すことができる。一 将来の費用又は損失(収益の控除を含む。以下この号において同じ。)の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該信託事務年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れることにより計上すべき引当金
二 前号に掲げる負債のほか、信託事務年度の末日においてその時の時価又は適正な価格を付すことが適当な負債
(のれんの評価)第九条 のれんは、次に掲げる場合に限り、資産又は負債として計上することができる。
一 有償で譲り受けた場合
二 信託の併合又は信託の分割により取得した場合
三 前二号に掲げる場合のほか、のれんを計上しなければならない正当な理由がある場合において、適正なのれんを計上するとき。
第三款 金銭以外の当初拠出財産等の評価
(当初拠出財産の評価)第十条 金銭以外の当初拠出財産(信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産をいう。以下この条において同じ。)については、委託者における信託の直前の適正な帳簿価額を付さなければならない。
前項の規定にかかわらず、当該当初拠出財産の取得原価を当該当初拠出財産の市場価格(市場価格がない場合にあっては、一般に合理的と認められる評価慣行により算定された価額。以下この項において同じ。)をもって測定することとすべき場合には、当該市場価格を付さなければならない。(金銭以外の信託財産に属する財産を受益者に給付する場合の評価)第十一条 金銭以外の信託財産に属する財産を受益者に給付するときは、当該財産については、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める価額を付さなければならない。
一 市場価格のある財産 市場価格
二 市場価格がない場合であって一般に合理的と認められる評価慣行が確立されている財産 当該評価慣行により算定された価額
三 市場価格がない財産であって一般に合理的と認められる評価慣行が確立されていない財産 給付の直前における当該財産の適正な帳簿価額
前項の規定にかかわらず、給付の直前における当該財産の適正な帳簿価額を付すべき場合には、当該帳簿価額を付さなければならない。第二節 計算関係書類等
第一款 総則
(計算関係書類等)第十二条 法第二百二十二条第三項及び第四項の規定により作成すべきものについては、他の法令に別段の定めがある場合を除き、この節に定めるところによる。
法第二百二十二条第四項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、貸借対照表、損益計算書(損益計算書を電磁的記録をもって作成した場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)及び信託概況報告並びにこれらの附属明細書(附属明細書を電磁的記録をもって作成した場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)とする。 前項に規定する書類又は電磁的記録は、信託事務年度の経過後、三月以内に作成しなければならない。 会計監査人設置信託(法第二百四十八条第三項に規定する会計監査人設置信託をいう。)における前項の規定の適用については、同項中「作成しなければ」とあるのは、「作成し、法第二百五十二条第一項の会計監査を受けなければ」とする。(表示の原則)第十三条 法第二百二十二条第三項及び第四項の規定により作成すべきもの(信託概況報告及びその附属明細書を除く。)に係る事項の金額は、一円単位、千円単位又は百万円単位をもって表示するものとする。
(重要な会計方針に係る事項に関する注記)第十四条 貸借対照表又は損益計算書(以下「計算書類」という。)には、計算書類の作成のために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他計算書類作成のための基本となる事項(次項において「会計方針」という。)であって、次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)を注記しなければならない。
一 資産の評価基準及び評価方法
二 固定資産の減価償却の方法
三 引当金の計上基準
四 収益及び費用の計上基準
五 その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項
会計方針を変更した場合には、次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)をも注記しなければならない。一 会計処理の原則又は手続を変更したときは、その旨、変更の理由及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容
二 表示方法を変更したときは、その内容
(追加情報の注記)第十五条 この節に定めるもののほか、信託に係る財産及び損益の状態を正確に判断するために必要な事項は、計算書類に注記しなければならない。
(効力発生日の貸借対照表)第十六条 法第二百二十二条第三項の規定により作成すべき貸借対照表は、限定責任信託の効力が生じた日における会計帳簿に基づき作成しなければならない。
(各信託事務年度に係る計算書類)第十七条 各信託事務年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、当該信託事務年度の前信託事務年度の末日の翌日(当該信託事務年度の前信託事務年度がない場合にあっては、限定責任信託の効力が生じた日)から当該信託事務年度の末日までの期間とする。 この場合において、当該期間は、一年を超えることができない。
各信託事務年度に係る計算書類及びその附属明細書は、当該信託事務年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならない。第二款 計算書類等
(貸借対照表の区分)第十八条 貸借対照表は、次に掲げる部に区分して表示しなければならない。
一 資産
二 負債
三 純資産
資産の部は、流動資産、固定資産その他の適当な項目に細分することができる。 負債の部は、流動負債、固定負債その他の適当な項目に細分することができる。 純資産の部は、信託拠出金、剰余金その他の適当な項目に細分することができる。(受益債権に係る債務の額の計上の禁止)第十九条 受益債権に係る債務の額は、貸借対照表の負債の部に計上することができない。
(給付可能額の注記)第二十条 貸借対照表には、給付可能額(法第二百二十五条に規定する給付可能額をいう。以下この章において同じ。)を注記しなければならない。
(損益計算書)第二十一条 損益計算書は、収益若しくは費用又は利益若しくは損失について、適切な部又は項目に分けて表示しなければならない。
(附属明細書)第二十二条 各信託事務年度に係る計算書類の附属明細書には、計算書類の内容を補足する重要な事項を表示しなければならない。
第三款 信託概況報告
第二十三条 信託概況報告は、当該限定責任信託の状況に関する重要な事項(計算書類及びその附属明細書の内容となる事項を除く。)をその内容としなければならない。
信託概況報告の附属明細書は、信託概況報告の内容を補足する重要な事項をその内容としなければならない。第三節 給付可能額の算定方法
第二十四条 法第二百二十五条に規定する法務省令で定める方法は、信託財産に係る給付(当該信託の受益権を当該信託の信託財産に帰属させることに代えて当該受益権を有する者に信託財産に属する財産を交付する行為を含む。以下この項において同じ。)の日の属する信託事務年度の前信託事務年度の末日における純資産額から次の各号に掲げる額の合計額を控除する方法とする。
一 百万円(信託行為において、信託留保金の額を定め、又はこれを算定する方法を定めた場合において、当該信託留保金の額又は当該方法により算定された信託留保金の額が百万円を超えるときにあっては、当該信託留保金の額)
二 信託財産に係る給付の日の属する信託事務年度の前信託事務年度の末日後に信託財産に係る給付をした場合における給付をした信託財産に属する財産の帳簿価額の総額
2 前項の純資産額の計算上、自己受益権(受益権が当該受益権に係る信託の信託財産に属する場合における当該受益権をいう。)は、資産として計上されていないものとする。 3 限定責任信託においては、第一項の信託行為において定めた給付可能額又は給付可能額を算定する方法は、信託の変更によって変更することができない。第四節 清算中の信託の特例
(総則)第二十五条 第十二条第一項の規定にかかわらず、法第二百二十二条第四項の規定により清算受託者(法第百七十七条に規定する清算受託者をいう。以下この節において同じ。)が作成すべきものについては、この節に定めるところによる。
(財産目録)第二十六条 清算受託者は、信託の清算が開始したときは、遅滞なく、法第百七十五条に規定する場合に該当することとなった日(以下この節において「清算開始の日」という。)における財産目録を作成しなければならない。
2 前項の財産目録に計上すべき財産については、その処分価格を付すことが困難な場合を除き、清算開始の日における処分価格を付さなければならない。 この場合において、清算中の信託の会計帳簿については、財産目録に付された価格を取得価額とみなす。 3 第一項の財産目録は、次に掲げる部に区分して表示しなければならない。 この場合において、第一号及び第二号に掲げる部は、その内容を示す適当な名称を付した項目に細分することができる。一 資産
二 負債
三 正味資産
(清算開始時の貸借対照表)第二十七条 清算受託者は、信託の清算が開始したときは、遅滞なく、清算開始の日における貸借対照表を、財産目録に基づき作成しなければならない。
2 前項の貸借対照表は、次に掲げる部に区分して表示しなければならない。 この場合において、第一号及び第二号に掲げる部は、その内容を示す適当な名称を付した項目に細分することができる。一 資産
二 負債
三 純資産
3 処分価格を付すことが困難な資産がある場合には、第一項の貸借対照表には、当該資産に係る財産評価の方針を注記しなければならない。 (各清算事務年度に係る貸借対照表)第二十八条 清算受託者は、各清算事務年度(清算開始の日の翌日又はその後毎年その日に応当する日(応当する日がない場合にあっては、その前日)から始まる各一年の期間をいう。以下この節において同じ。)に係る貸借対照表を、会計帳簿に基づき作成しなければならない。
2 前条第二項の規定は、前項の貸借対照表について準用する。 3 清算受託者は、各清算事務年度に係る貸借対照表の附属明細書を作成しなければならない。 4 前項の附属明細書は、貸借対照表の内容を補足する重要な事項をその内容としなければならない。 (各清算事務年度に係る事務報告)第二十九条 清算受託者は、各清算事務年度に係る事務報告及びその附属明細書を作成しなければならない。
2 前項の事務報告は、清算に関する事務の執行の状況に係る重要な事項をその内容としなければならない。 3 第一項の附属明細書は、同項の事務報告の内容を補足する重要な事項をその内容としなければならない。第四章 受益証券発行限定責任信託の会計監査
(会計監査報告の作成)第三十条 法第二百五十二条第一項の規定により法務省令で定める事項については、この条に定めるところによる。
2 会計監査人は、その職務を適切に遂行するため、次に掲げる者との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならない。 ただし、会計監査人が公正不偏の態度及び独立の立場を保持することができなくなるおそれのある関係の創設及び維持を認めるものと解してはならない。一 当該受益証券発行限定責任信託の受託者、信託財産管理者、民事保全法(平成元年法律第九十一号)第五十六条に規定する仮処分命令により選任された受託者の職務を代行する者及び信託財産法人管理人(以下これらの者を「受託者等」という。)
二 その他会計監査人が適切に職務を遂行するに当たり意思疎通を図るべき者
(計算関係書類の会計監査)第三十一条 法第二百五十二条第四項において読み替えて適用する法第二百二十二条第四項の規定による会計監査については、次条及び第三十三条に定めるところによる。
(会計監査報告)第三十二条 会計監査人は、計算関係書類(計算書類及びその附属明細書をいう。以下同じ。)を受領したときは、会計監査報告を作成しなければならない。
2 会計監査報告は、次に掲げる事項をその内容としなければならない。一 会計監査人の会計監査の方法及びその内容
二 計算関係書類が当該受益証券発行限定責任信託の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見があるときは、次のイからハまでに掲げる意見の区分に応じ、当該イからハまでに定める事項
イ 無限定適正意見 会計監査の対象となった計算関係書類が一般に公正妥当と認められる会計の慣行に準拠して、当該計算関係書類に係る期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められる旨
ロ 除外事項を付した限定付適正意見 会計監査の対象となった計算関係書類が除外事項を除き一般に公正妥当と認められる会計の慣行に準拠して、当該計算関係書類に係る期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められる旨並びに除外事項
ハ 不適正意見 会計監査の対象となった計算関係書類が不適正である旨及びその理由
三 前号の意見がないときは、その旨及びその理由
四 追記情報
五 会計監査報告を作成した日
3 前項第四号に規定する「追記情報」とは、会計監査人の判断に関して説明を付す必要がある事項又は計算関係書類の内容のうち強調する必要がある事項とする。 (会計監査報告の通知期限等)第三十三条 会計監査人は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに、受託者等に対し、各信託事務年度に係る計算書類及びその附属明細書についての会計監査報告の内容を通知しなければならない。 ただし、受託者等のうち、信託行為の定め又は受託者等の合意により通知を受ける者が指定された場合には、指定された者に通知すれば足りる。
一 当該計算書類の全部を受領した日から四週間を経過した日
二 当該計算書類の附属明細書を受領した日から一週間を経過した日
三 信託行為で定めた日又は受託者等(この項ただし書に規定する場合にあっては、指定された者。次項において同じ。)及び会計監査人の間で合意により定めた日があるときは、その日
2 計算関係書類については、受託者等が前項の規定による会計監査報告の内容の通知を受けた日に、会計監査人の監査を受けたものとする。 3 前項の規定にかかわらず、会計監査人が第一項の規定により通知をすべき日までに同項の規定による会計監査報告の内容の通知をしない場合には、当該通知をすべき日に、計算関係書類について会計監査人の監査を受けたものとみなす。