ハンセン病の患者は、これまで、偏見と差別の中で多大の苦痛と苦難を強いられてきた。我が国においては、昭和二十八年制定の「予防法」においても引き続きハンセン病の患者に対する隔離政策がとられ、加えて、昭和三十年代に至ってハンセン病に対するそれまでの認識の誤りが明白となったにもかかわらず、なお、依然としてハンセン病に対する誤った認識が改められることなく、隔離政策の変更も行われることなく、ハンセン病の患者であった者等にいたずらに耐え難い苦痛と苦難を継続せしめるままに経過し、ようやく「予防法の廃止に関する法律」が施行されたのは平成八年であった。
我らは、これらの悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびするとともに、ハンセン病の患者であった者等に対するいわれのない偏見を根絶する決意を新たにするものである。
ここに、ハンセン病の患者であった者等のいやし難い心身の傷跡の回復と今後の生活の平穏に資することを希求して、ハンセン病療養所入所者等がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝するとともに、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復及び福祉の増進を図り、あわせて、死没者に対する追悼の意を表するため、この法律を制定する。
(趣旨)第一条 この法律は、ハンセン病療養所入所者等の被った精神的苦痛を慰謝するための補償金(以下「補償金」という。)の支給に関し必要な事項を定めるとともに、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復等について定めるものとする。
(定義)第二条 この法律において「ハンセン病療養所入所者等」とは、次に掲げる者をいう。
一 予防法の廃止に関する法律(平成八年法律第二十八号。以下「廃止法」という。)により予防法(昭和二十八年法律第二百十四号)が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所(廃止法第一条の規定による廃止前の予防法(以下「旧予防法」という。)第十一条の規定により国が設置したらい療養所をいう。)その他の本邦に設置された厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所(以下「国内ハンセン病療養所」という。)に入所していた者であって、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)において生存しているもの
二 昭和二十年八月十五日までの間に、行政諸法台湾施行令(大正十一年勅令第五百二十一号)第一条の規定により台湾に施行された旧予防法附則第二項の規定による廃止前の癩予防法(明治四十年法律第十一号)第三条第一項の国立癩療養所、朝鮮癩予防令(昭和十年制令第四号)第五条の朝鮮総督府癩療養所その他の本邦以外の地域に設置された厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所(以下「国外ハンセン病療養所」という。)に入所していた者であって、施行日において生存しているもの(前号に掲げる者を除く。)
(補償金の支給)第三条 国は、ハンセン病療養所入所者等に対し、その者の請求により、補償金を支給する。
(請求の期限)第四条 補償金の支給の請求は、次の各号に掲げるハンセン病療養所入所者等の区分に従い、当該各号に掲げる日から起算して五年以内に行わなければならない。
一 第二条第一号に掲げる者
施行日。
二 第二条第二号に掲げる者
改正法の施行の日
第五条 補償金の額は、次の各号に掲げるハンセン病療養所入所者等の区分に従い、当該各号に掲げる額とする。
一 昭和三十五年十二月三十一日までに、初めて国内ハンセン病療養所に入所した者
千四百万円
二 昭和三十六年一月一日から昭和三十九年十二月三十一日までの間に、初めて国内ハンセン病療養所に入所した者
千二百万円
三 昭和四十年一月一日から昭和四十七年十二月三十一日までの間に、初めて国内ハンセン病療養所に入所した者
千万円
四 昭和四十八年一月一日から平成八年三月三十一日までの間に、初めて国内ハンセン病療養所に入所した者
八百万円
五 第二条第二号に掲げる者
八百万円
第六条 ハンセン病療養所入所者等が補償金の支給の請求をした後に死亡した場合において、その者が支給を受けるべき補償金でその支払を受けなかったものがあるときは、これをその者の配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの(以下「遺族」という。)に支給し、支給すべき遺族がないときは、当該死亡した者の相続人に支給する。
2 前項の規定による補償金を受けるべき遺族の順位は、同項に規定する順序による。 3 第一項の規定による補償金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その全額をその一人に支給することができるものとし、この場合において、その一人にした支給は、全員に対してしたものとみなす。 (損害賠償等がされた場合の調整)第七条 補償金の支給を受けるべき者が同一の事由について国から国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)による損害賠償その他の損害のてん補を受けたときは、国は、その価額の限度で、補償金を支給する義務を免れる。
2 国は、補償金を支給したときは、同一の事由については、その価額の限度で、国家賠償法による損害賠償の責めを免れる。 (譲渡等の禁止)第八条 補償金の支給を受ける権利は、譲渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
(非課税)第九条 租税その他の公課は、補償金を標準として課することができない。
(不正利得の徴収)第十条 偽りその他不正の手段により補償金の支給を受けた者があるときは、厚生労働大臣は、国税徴収の例により、その者から、当該補償金の価額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。 (名誉の回復等)第十一条 国は、ハンセン病の患者であった者等(第二条第二号に掲げる者を除く。次項において同じ。)について、名誉の回復及び福祉の増進を図るとともに、死没者に対する追悼の意を表するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 前項の措置を講ずるに当たっては、ハンセン病の患者であった者等の意見を尊重するものとする。 (厚生労働省令への委任)第十二条 この法律に定めるもののほか、補償金の支給の手続その他の必要な事項は、厚生労働省令で定める。