--- title: "労働基準法改正とは:40年ぶり大改正の背景と主要7項目" description: "労働基準法の現行の時間規制の枠組みと、約40年ぶりの大改正の背景を解説します。研究会報告書が示す連続勤務規制・勤務間インターバル義務化・副業兼業の通算ルール見直しなど主要改正項目と、2026年通常国会提出見送りの経緯を整理します。" date: 2026-05-27 category: 法令解説 tags: [労働基準法, 労働時間] related_laws: [322AC0000000049] draft: false --- 労働基準法(法令ID:`322AC0000000049`)は、昭和22年(1947年)に制定された労働条件の最低基準を定める法律です。法定労働時間・休憩・休日・時間外労働の上限・年次有給休暇・賃金・解雇予告などを規律しており、使用者と労働者の関係における基本的な保護ルールが置かれています。条文全文は[法令全集の労働基準法ページ](/view/322AC0000000049)および[e-Gov法令検索](https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)で確認できます。企業の人事・労務担当者、経営者、労働組合関係者が実務上参照する機会の多い法律です。この記事では、e-Gov掲載の条文と厚生労働省・労働政策審議会の公表資料に基づき、現行法の骨格を確認したうえで、2024年から進められている約40年ぶりの大改正議論の経緯と主要な検討項目を整理します。 ## 労働基準法が定める時間規制の骨格(第32条・第35条・第36条) 労働基準法の中核的な規制は、労働時間・休日・時間外労働の三つに分かれます。それぞれ根拠条文が異なり、実務上の確認順序として重要な関係にあります。 第32条は法定労働時間を定めています。使用者は労働者に対し、休憩時間を除き1週間に40時間を超えて労働させてはならないとされており、1日については8時間が上限です。この「1日8時間・週40時間」が法定労働時間の基本であり、変形労働時間制やフレックスタイム制はこの枠組みを前提として機能します。 第35条は休日について定めています。使用者は毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています。ただし、変形休日制として4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については例外が認められています。この4週4日の例外は、現行制度では理論上13日以上の連続勤務を可能にする余地を残しており、改正論議の焦点の一つになっています。 第36条は時間外労働・休日労働の手続きを定めています。使用者が法定労働時間を超えて労働させる場合や休日に労働させる場合には、労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、行政官庁に届け出る必要があります。2019年4月施行の働き方改革関連法により、時間外労働の上限が法律で明確化されました。原則として月45時間・年360時間が上限とされ、特別条項でも年720時間(複数月平均80時間、月100時間未満)を超えることができないとされています。 第37条は割増賃金について定めています。法定時間外労働・深夜労働・法定休日労働それぞれに対して、一定の割増率で割増賃金を支払う義務があります。第39条は年次有給休暇を定めており、6か月以上継続勤務して所定労働日の8割以上出勤した労働者に対し、法定の日数の年次有給休暇を与えることが義務づけられています。 これらの条文は長年にわたって企業の労務管理の基礎をなしてきましたが、テレワークの普及、副業・兼業の増加、フリーランス的な働き方の拡大など、1947年の制定時や1987年の大改正時には想定されていなかった働き方の多様化が進んでいます。こうした実態の変化に対応するため、包括的な見直しの議論が始まっています。 ## 1987年改正から約40年ぶりの見直しに至る経緯 労働基準法が最後に大きく見直されたのは、1987年(昭和62年)の改正です。この改正では週休2日制に向けた法定労働時間の段階的な短縮、変形労働時間制の整備、フレックスタイム制の導入、裁量労働制の創設など、当時の社会変化に対応した制度が整えられました。この1987年改正から2024年ごろまでの約40年間、労働基準法の基本的な構造は大きく変わっていません。 その間にも個別の改正は行われています。2000年代には育児・介護と仕事の両立支援に関する改正や割増賃金率の引き上げなどが行われました。そして最近では、2018年(平成30年)に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が成立し、2019年4月から順次施行されています。 働き方改革関連法では、第36条に基づく時間外労働の上限規制が法律に明文化されました(それ以前は大臣告示による基準でした)。また、同一労働同一賃金の原則が強化され、勤務間インターバル制度が事業者の努力義務として導入されました。 この働き方改革関連法の附則第12条には、「施行後5年を経過した場合において、この法律の規定による改正後の規定の施行状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるもの」との見直し規定が置かれています。この附則が、今回の大改正議論の制度的な出発点になっています。2019年の施行から5年が経過した2024年が、見直しの検討を本格的に開始するタイミングとなりました。 補助情報として、労働基準法の基本情報を整理します。 | 項目 | 内容 | |---|---| | 正式名称 | 労働基準法 | | 法令番号 | 昭和22年4月7日法律第49号 | | 法令ID | 322AC0000000049 | | 制定年 | 1947年(昭和22年) | | 主な分野 | 労働時間、休日、時間外労働、賃金、解雇、年次有給休暇 | ## 労働基準関係法制研究会の設置と2025年1月報告書の位置づけ 働き方改革関連法の附則に基づく見直しを進めるため、厚生労働省は2024年1月、荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授を座長とする「労働基準関係法制研究会」を設置しました。研究会は2024年を通じて全16回にわたる検討を行い、2025年1月8日に報告書を公表しました。 報告書は「労働基準関係法制に共通する総論的課題」と「労働時間法制の具体的課題」の二章構成です。前者では、労働基準法における「労働者」概念(フリーランスや個人事業主を含めた適用範囲の議論)、「事業」概念の見直し、労使コミュニケーションのあり方(特に過半数代表者の選出の適正化と基盤強化)が取り上げられています。後者では、連続勤務の上限規制、勤務間インターバルの義務化、週44時間特例の廃止、副業・兼業の割増賃金の取り扱い、管理監督者への健康・福祉確保措置の導入など、具体的な制度変更の方向性が示されています。 報告書は改正法案そのものではなく、あくまで研究会としての提言・方向性の整理です。この報告書を受けて、労働政策審議会(労政審)労働条件分科会での制度設計の審議に入るというのが通常の流れです。研究会報告書の段階では、個々の論点について「検討が必要」「見直しを提言する」という記述が多く、具体的な条文案は示されていません。 働き方改革関連法の附則に基づく見直しであることから、改正の範囲は労働基準法だけでなく、関連する法令も含まれます。労働安全衛生法、最低賃金法、労働者派遣法など複数の法令との整合性を考慮しながら制度設計が進められます。 ## 連続勤務の上限規制と勤務間インターバルの義務化 研究会報告書が提言した項目の中で、日常的な労務管理に直結する影響が大きいとされるのが、連続勤務の上限規制と勤務間インターバルの義務化です。 連続勤務の上限規制については、報告書は「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を労働基準法に設けるべきと提言しています。現行の第35条は4週間に4日の休日を与えれば足りるため、理論上は13日以上の連続勤務が適法となる余地があります。労災認定基準では、休日のない2週間以上の連続勤務は心理的負荷の要因として認められており、過重労働による健康被害との関連が指摘されています。医療・介護・小売など交代制勤務が多い業種では、長期連続勤務が特に問題になっています。 ただし、具体的な実施にあたっては、4週単位での休日管理から週単位の連続勤務の管理への移行が必要になるため、交代制勤務のシフト組みに影響が及ぶ可能性があります。報告書の提言は「13日超の禁止」ですが、法令化の際にどのような例外・猶予を設けるかは引き続き議論が必要とされています。 勤務間インターバル制度の義務化は、2018年の働き方改革関連法で努力義務として導入された制度の法的効力を強化するものです。勤務間インターバルとは、終業時刻から翌日の始業時刻まで一定の時間(休息時間)を確保することを企業に義務づける制度です。EU指令では最低11時間のインターバルが義務とされており、日本の議論でも11時間が参照されています。 現時点では努力義務にとどまっているため、実際に制度を導入している企業の割合は厚生労働省の調査で5.7%程度(2022年時点)にとどまっています。義務化されれば、深夜勤務の翌日に早朝からの勤務を割り当てることが制限され、シフト管理・人員配置の見直しが必要になる業種や事業場が出てきます。報告書では「抜本的な導入促進と義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要がある」とされており、義務化の方向性は示されつつも、経過措置や適用猶予の設計が課題となっています。 ## 週44時間特例の廃止・法定休日の特定・有給休暇賃金の統一 研究会報告書はこのほか、実務上の影響が大きい複数の制度見直しを提言しています。 週44時間特例の廃止は、現行の第40条および関連政令が認める「常時10人未満の労働者を使用する商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業」向けの特例(週44時間まで許容)を廃止し、すべての事業場で週40時間を原則とするものです。報告書によれば、対象業種の事業場の87.2%がこの特例を実際には使用していないとされており、「概ね制度の役割を終えている」と評価されています。廃止されれば、特例を活用していた小規模事業場では所定労働時間の見直しや人員体制の整備が必要になる場合があります。 法定休日の事前特定義務化は、現在は特定の義務がない法定休日(週1回または4週4日の休日)について、就業規則等であらかじめ明示することを義務化するものです。現行制度では法定休日を特定しなくても違法ではないため、時間外労働の割増率(休日労働は35%増、深夜は25%増)の計算をめぐるトラブルの原因になることがあります。特定義務化によって、どの日が法定休日かが明確になり、割増賃金の計算や36協定の管理が整理しやすくなる効果が期待されています。 有給休暇の賃金算定方式の統一については、現行制度では通常賃金・平均賃金・健康保険の標準報酬日額相当の三種類の算定方式から事業場が選択できます。報告書では、これを原則として通常賃金方式に統一する方向が示されています。算定方法が統一されることで、労使双方にとっての計算の煩雑さが軽減される効果があります。ただし、変更前に平均賃金方式を選択していた事業場では実際の支給額が変動する場合があるため、移行時の対応が必要になります。 ## 副業・兼業の労働時間通算ルール見直しと管理監督者への対応 副業・兼業の推進が政策として打ち出されている一方で、現行の労働基準法の労働時間通算ルールが副業推進の障壁になっているという指摘があります。報告書はこの点についても見直しの方向を示しています。 現行の制度では、労働者が複数の事業場で働く場合、第38条の「事業場を異にする場合も、労働時間に関する規定の適用については通算する」との規定により、各事業場の労働時間を合算して法定労働時間・時間外労働の上限を管理する必要があります。具体的には、副業先での労働時間も含めて通算し、法定時間を超えた分には割増賃金を支払う義務が生じます。この通算義務は使用者(本業・副業の両社)が労働時間の状況を把握する必要があることを意味し、実務上の管理が困難であるという問題が生じています。 研究会報告書は、「労働時間の通算は維持しつつも、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう改正すること」を提案しています。具体的には、各事業場が自社の範囲内で法定労働時間の管理と割増賃金の支払いを行い、他社での労働時間との通算義務を割増賃金の面では免除する方向です。これにより、副業推進に伴う企業側の管理負担を軽減し、労働者が副業に取り組みやすい環境を整備することが期待されています。ただし、健康管理の観点から労働時間の把握そのものを不要とするわけではなく、過重労働の防止との整合性が引き続き課題となります。 管理監督者への健康・福祉確保措置の導入も報告書が提言する新たな方向性です。現行の労働基準法では、第41条に規定する管理監督者(監督・管理の地位にある者)は、労働時間・休憩・休日に関する規定の適用が除外されています。このため、管理監督者に対しては時間外労働の上限規制が適用されず、法的な労働時間の上限なく働かせることができる状態です。報告書では、管理監督者にも一定の健康・福祉確保措置(健康診断の充実、面接指導の義務化など)を導入することが検討課題として示されています。 また、報告書の総論的課題のなかで指摘されているのが、過半数代表者の選出の適正化です。36協定その他の労使協定を締結する際の相手方となる過半数代表者(過半数組合がない事業場での労働者代表)について、使用者が指名する形での選出など不適切な選出が行われているケースが指摘されています。報告書はこの点の改善を求めており、民主的な選出手続きの確保が課題として示されています。 ## 高市政権の政策転換と2026年通常国会提出見送りの経緯 2025年1月に研究会報告書が公表された後、改正作業は労働政策審議会(労政審)の労働条件分科会に移りました。しかし、2025年12月26日、厚生労働大臣は記者会見において「2026年の通常国会での法案提出は現在のところ考えていない」と明言し、提出見送りが確定しました。 見送りの直接の背景として報道されているのは、2025年10月の政権交代の影響です。高市早苗氏が内閣総理大臣に就任した後、厚生労働大臣に対して「心身の健康維持と従業員の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討を行う」との指示が出されました。これは、研究会報告書が示していた規制強化(連続勤務規制・勤務間インターバル義務化など)の方向性とは逆の方向性を指示するものです。 「規制強化」と「規制緩和(労働者の選択の拡大)」の方向性が政府内で調整されないまま法案提出することは困難であり、当初想定されていた2026年通常国会への提出が見送られました。提出見送りの発表は2025年12月の時点ですが、この記事の作成時点(2026年5月27日)においても、2026年通常国会への提出は行われていません。現時点での見通しとしては、労政審での審議を継続したうえで2027年通常国会での法案提出が視野に入っているとされていますが、確定したものではなく、政権の政策判断や国会の動向によって変わる可能性があります。 見送りによって改正の中身そのものが白紙になったわけではありません。労働条件分科会での審議は継続しており、連続勤務規制・勤務間インターバル義務化・週44時間特例廃止などの検討項目は引き続き議論の対象となっています。ただし、高市総理の指示を踏まえると、当初の研究会報告書が示した方向性がそのままの形で法制化されるかどうかは不透明な状況です。 実務的な準備という観点では、改正の内容が確定するまでには一定の期間があります。法案が提出された場合でも、国会での審議・成立・公布・施行までの期間や移行措置の内容が影響します。勤務間インターバルについては現在も努力義務として存在するため、義務化を見据えて自社の運用を整えておくことは準備として有効です。連続勤務の管理についても、過重労働対策の観点から現行の安全衛生法制の枠内での対応が求められています。改正の動向については、厚生労働省・労政審の公表資料を継続的に確認することが必要です。 ## 参考リンク この記事では、以下の公式・公的情報を参照しました。 - [法令全集:労働基準法](/view/322AC0000000049) - [e-Gov法令検索:労働基準法](https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049) - [厚生労働省:「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します(令和7年1月8日)](https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html) - [厚生労働省:労働基準法が改正されました(働き方改革関連法)](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roukikaitei/index.html) - [厚生労働省:労働政策審議会 労働条件分科会](https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-roudou_127208.html)